交通事故に関しての医療費の判例の錯覚と誤解に関しての考察

交通事故に関しての医療費の判例の錯覚と誤解に関しての考察

 交通事故に関しての医療費に関しては『交通事故における医療費単価と濃厚治療』江口保夫著等の著作物があり、様々な裁判の判例もありますが、それらに関しまして、殆ど考慮されていない部分が多々有ります。(完成された医療が現在迄無い事は知られておりますが、完成された健康保険制度など無く、当然、完成された健康保険診療体系など在る筈も無く、まして完成された健康保険診療報酬体系など有ろう筈がありません。)ところが、大きな欠点がある現行の健康保険制度を相当の完成度の高いものとして、殆どの裁判が展開されております。その為に、現行の健康保険制度の欠陥部分は全くと言っていい程かえりみられておりません。(問題にされるのは、診療報酬単価が1点10円、濃厚過剰治療等に関してが殆どの様に見受けられます。)
 『完成度が高いとされている現行の健康保険制度』の裏側には、次の様な事柄が、何ら改善されることもなく、長期にわたって未処理のまま隠蔽されております。はたして現行の健康保険法の診療報酬体系がこれでも正当妥当と言えるのかはなはだ疑問です。

1-01.  個々の医師の技術力は、全く評価されない。(医科大学卒業直後の医師の加療であっても、熟練した医師の加療であっても、全く同等の評価である。)
1-02.  病院・診療所の所在地による経費等に関して、全く考慮されていない。(仮に東京の銀座4丁目で診療所を開設するには相当の経費がかかりますが、程々の地方都市では経費はそれよりかからない。ただし、来院患者数の考慮も必要です。)
1-03.  新しい医療医術の取り入れが緩慢で、医療現場に即応していない。場合によっては無視している。(従来の医療のまま何の進歩もしない医療など無いのに、様々な評価の課程では殆どを現行の健康保険制度と対比するだけであり、行政側の対応は医療の進歩に追従し切れておりません。)
1-04.  視能訓練士がそうであったように、日本国内では法的に認知されていない医療技術でも、海外では、当然の医療技術として認知されているものが多々あります。しかしながら、厚生行政当局と医療現場には相当の開きがあることも事実です。この場合、医療現場は、各傷病者の為に最善を尽くす義務があります。この様な場合、健康保険のメニューにないからとして傷病者を排除しても良い筈はないのですが、現行の判例にはその点は殆ど触れられておりません。(柔道整復の分野では、整体、カイロプラクティック、オステオパシー等々がその様な分野になります。しかしながら、医師はこの分野にあまり関心がない様で、傷病者は、それらの技術を求めて柔道整復師を訪ねる場合があります。この様に在来の医師医療と在来の柔道整復師医療のはざまの医療の補完まで、現在の柔道整復師は背負わなければならない立場になっています。)
1-05.  かつて使用していたが、現在はその存在さえ知らない医療当事者が多い様な医療資材の使用を指定し、新しい医療資材の使用の障害になっている。(柔道整復師の分野では、東大式網目状金網副子などは販売している業者さえ不明です。また、樹脂系の固定 資材、アルミ系副子等は、骨折不全骨折時には、骨片転移の抑制に大きな効果がありますが、健康保険では使用不可です。)
1-06.  いかに、健康保険診療の報酬について、健康保険法は、「療養に要する費用の額は厚 生大臣が定める。」とされ、厚生大臣は中央社会保険医療協議会の諮問を受け療養に要する費用の額を定めるとされている。右協議会は、「保険者、被保険者等支払者側代表委員、医師側代表委員、および、公益を代表する委員で構成され、審議の結果出される答申の内容は関係各界の利益を調和させ、公益を反映させるものとして、一応公正妥当なものと推定することができる。」としていますが、医師とほぼ同様の治療をした場合でも料金格差がある当事者である柔道整復師には、意見を述べる機会すら与えられず、この点は長期間にわたって放置されたままです。
1-07.  損害保険会社が加療の早期打ち切りをしている事実は、自算会(自動車保険料率算定会)でも認識しており、民間の損害保険会社が関係する傷病者の加療終了(現実には『打ち切り』)後、その傷病者が終了と同時に健康保険で受診している場合或いはごく短い日数をおいて健康保険で受診している場合が有ることを、ひたかくしにしております。(自算会某調査事務所の某氏によりますと、交通事故被害者の60〜70%が、健康保険に切り替えさせられて、加療を継続しているとの話もありました。)
1-08. 被害者、加害者共に強制賠償保険、任意保険に加入していた場合、これが健康保険に関係を持つとは、国民の多くの者が想像しません。被害者、加害者共に負傷した場合に、自賠責の120万円の枠内の治療は被害者、加害者共受診できる訳です。仮にそれ以上の費用は、相手方の任意保険で支払われる様に考えております。そしてその為に民間損害保険会社及び民間共済組合の任意保険に加入しています。これが一般国民の錯覚であるとするなら、自動車に関しての保険制度が、国民を裏切っている様にも思えます。
1-09.  健康保険は、全額が、健康保険税(料)と、個人負担分(国民健康保険では30%)で賄われている訳で無い事は御承知のとおりです。厚生白書によれば、財政調整交付金(国からの支出)が50%、健康保険税(料)として38.5%と各地方自治体の状況から繰入金として21.5%となっております。(直接の健康保険税(料)を除いた部分だけでも71.5%に及び、これは純然たる税金です。一部の民間の損害保険会社或いは民間共済組合の為に利用されるべきものではありません。
1-10.  詭弁を弄して、あたかも自動車の強制賠償保険が破綻してしまうから交通事故における医療費単価を引き下げればよいと言う問題では有りません。一部の民間の損害保険会社或いは共済組合の中には、自動車の強制賠償保険が破綻してしまうと言うことを口実にして、自動車の任意保険まで明らかに健康保険にオンブに、ダッコして、肩代わりさせている会社があります。(本来自賠責と任意保険及び加害者の個人負担で処理すべきものを、税金で賄われている健康保険に『医療』と言うことで転嫁し肩代わりさせ、本来損害保険会社や共済組合が担うべき支払額の減少をただ単に計ればよいとしています。)
1-11.  自動車事故の被害者及び加害者に関して、健康保険での加療も可としています。民間の損害保険会社や共済組合側から見れば、支出する保険金や共済金が減額できる訳ですから何ら苦情はありませんが、第三者加害行為として全く問題が無いとは言えません。(加害者がいなければ、被害者は居ない筈です。当然被害者の治療費は加害者が負担すべきものです。その様に考えた場合は、加害者の健康保険で被害者の治療をすることになります。しかしながら、その様なことは現実問題として有り得ません。被害者は被害者の健康保険で加療し個人負担分を加害者が支払うというのが現実です。(かつて健康保険が、より裕福な時代、健康保険の利用率が一定額以下の場合、報償があったことがあります。この様な場合、加害者に責任の多くがある場合、何で被害者の健康保険を使って被害者自身の加療をしなければならないのか当事者は理解に苦しむ訳です。この件 に関しては、あくまで、被害者の救済の為の事項(加害者の支払い能力の欠如、被害者 の長期加療の必要性)としてはやむを得ませんが、民間の損害保険会社や共済組合の救済の為に用いられるべきものではないと思います。前述しました様に、当面の被害者は、被害者の所属する健康保険に加入している国民或いは組合員ですが、2次的には税 金を負担している国民全員です。
 司法当局の目をそらす為に、これらの団体は、裁判の際には前記の様に、健康保険の不備欠陥には全く触れず、『健康保険の何倍』であるか或いは『濃厚過剰診療』の点ばかりを争点にして、自由診療の得失を論ぜず、一方的な欠点ばかり取り上げております。
 対柔道整復師の加療に関しては更に悪質で、医師単価と柔道整復師単価の健康保険での当初からの格差には一切触れず、前述の医師に対しての論法で、医師単価と比較して格段に低額の柔道整復師単価に関しても健康保険の何倍であるかのみを論じております。(この論法で言いますと、後述します様に、1.44倍となります。)
 別紙の様に、柔道整復師加療単価は健康保険での格差の上に更に労災保険を健康保険の1.2倍とし自動車関連では更にその1.2倍(柔道整復師の健康保険を起点にした場合1.44倍)として倍率計算しておりますので、その格差は更に拡大します。(医師(整形外科)との格差は最大約17倍にも達する項目も在ります。)この計算方法が常識的であるか否かは、一般国民で有れば誰もが理解できるものです。(あたかも、豆腐の上に、家を建てる様なものです。)更に医師医療での自動車関連の単価には、長期加療逓減制は導入されておりませんが、柔道整復師医療では、労災保険を基準にしていると言いながら、健康保険の長期加療逓減制はそのまま適用するような、『よいとこ取り』の状態です。

参考
  『交通事故における医療費単価と濃厚治療』江口保夫著のP.10
  (イ)診療契約と報酬には、医師と患者間に締結される診療契約は、医師が、善良なる管理者の注意を持って、診療当時の臨床医学の実践における医療水準に従い、適切な診療を行った場合に報酬請求権が発生するもので、その額については自由に合意することができ、その内容が公序良俗に違反する特段の事情の存しない限り合意に基づき報酬を請求できる。合意のない場合については、裁判所が診療内容に即した相当な診療報酬額を諸般の事情を考慮して決定すべきものとした。と在ります。ここにある著者は、某損害保険会社代理人弁護士ご本人です。

  『交通事故における医療費単価と濃厚治療』江口保夫著のP.15
 昭和43年12月10日の日本医師会全理事の決定として「轢き逃げまたは無保険者による場合を除き自賠法優先を認めるべきであり、行政上の取り扱いとして、できるだけ自賠法の優先適用という方向をとらなければいけないことだけは確かである。」とし、「自動車事故には健康保険診療をお断りします。」との地域医師会名義の掲示をはり出した。これに対して運輸省自動車局保証課として、「法解釈上は、当然被害者の任意選択に任されていると考えるべきであるとし、実務上の取り扱いとしても健保診療が望ましいとし、健康保険法は、第三者加害行為に対し給付しない旨の除外規定は存在しない。かえって、第三者加害行為の場合に保険者による求償権を規定しているから、健保法の適用があるのは明白である。」としたとしています。
 では何故自賠責保険が在り、任意保険(対人賠償に関しての)が在るのかについては言及しておりません。全てが、健康保険で解決できるもので在れば、民間損害保険会社は、物損関連と、死亡事故のみの扱いでよいことになります。自賠責も民間損害保険の対人賠償保険は死亡時でなければ不要であることになります。



2004.01.11