会社員の発明に対しての報酬(発明対価) その2
会社員がその企業(会社)内で発見発明したものについて東京地裁ではとてつもない金額を企業(会社)が元会社員に対して支払えと言う様な判断を下しました。確かに、その企業(会社)はその発明で多大な利益を上げたことは事実であり、企業(会社)が、当該会社員に支払った対価(奨励金等)が2万円であったという事は、この企業(会社)があまりにもえげつないとも言えます。しかし、裁判官の出した結論もお粗末でした。 このような判断を下した裁判官の浮世離れした考え方こそが、現在の司法そのものの姿である様にも思えます。一般社会・国民生活から隔絶された世界に居ては、一般社会・国民生活などわかる筈もなく、一般社会・国民の常識から遥かに隔たった判断がなされるのは当然の様に思えます。一般常識のない者が裁判官になっているという一例の様に思えてなりません。 文系である裁判官の弱点を露呈したようにおもえます。既に、東芝の『フラッシュメモリー』の件で、10億円支払いの判決が出ているのにもかかわらず、日亜化学の『青色発光ダイオード(LED)』 の件では、6億857万円(遅延損害金を含み8億4391万円)での和解としました。『フラッシュメモリー』と比較した場合、『青色発光ダイオード(LED)』の利用分野のすそ野の広さはより大きいように思えます。それにもかかわらず、より低額の和解では、中村修二氏だけでなく、理系の人間としては、首を傾げたくなります。 東京地裁で200億円の支払いを命じ、東京高裁では1/20以下の8億4千万円足らずの和解金です。これを単に下級審と上級審の違いで済ます事は出来ないように思えます。理系の人間は、この様な事態を『デタラメ』と言います。判断の根拠が、いい加減であると言うよりほか有りません。要するに、どの様な判断・判決もで決定できると言う事が判明した訳です。 今回の結果から今後予想されることは、会社員が企業(会社)内で発明した事物に対して、妥当性のない報酬(発明対価)の支払いに対抗して、当面の研究は現在所属する企業(会社)内で行い、終盤或いは最終結果は別の同種の別の企業(会社)に持ち込んで仕上げの研究をする。或いは自分でスポンサー等を探して、新たに企業(会社)を立ち上げるようになるであろう事です。この度のような各裁判所の導き出した結果が、日本の産業界にとって良い結果を生むようにはとても思えません。会社員企業(会社)内での発明に対しては、会社員・企業(会社)双方で、妥当性のある報酬(発明対価)の授受が成立しない限り双方に不満が残り、知的財産権が問題になっている現在の日本では、やがて頭脳流出だけにとどまらず技術等も全て流失し、抜け殻の様な状態になるように思えます。 私見ではありますが、仮に和解になったとしても、30〜50億円程度になるものと考えておりました。プロ野球の選手等が、数十億円/年の契約金を受け取っている事から考えた場合、優秀な研究者・優秀な技術者でも、一生の内に度々この様な発明が出来るようには思えません。それらを考慮した場合、8億4千万円足らずの和解金は、中村修二氏だけでなく、理系の人間としては腹立たしく思える事でしょう。(中村修二氏の記者会見での発言から引用しますと『日本の司法制度は腐っている。』『憲法論と法律論だけに終始している。』等の報道がありました。)確かに、8億4千万円と言う金額は、個人的にはすごい金額である事は確かですが、今後の相対的な日本の利益ということを考えますと、優秀な人材を国内で育てるためには、やはりそれなりの研究成果に対しての報酬というものが必要である様に思えます。これだけ世界的にも素晴らしい成果をおさめた方が、現在アメリカにいるということ考えてみると日本にとってはかなりのマイナスでしょう。 すでにこれは企業(会社)レベルの話ではなく、国がそれなりの対策を打ち出す時期に来ている様にも思われます。そうしなければ、研究者・技術者というものは日本からどんどんと減っていってしまいます。ただでさえ『理系離れ』という言葉が定着してしまっているのに、それに追い討ちをかけてしまうような現在の日本の在り方には疑問を抱きます。 武田信玄の『…人は石垣、人は城…』から考えれば、当該企業(会社)は研究者・技術者に対して、きちんとそれなりの感謝の意を表しておくべきだった事は明らかです。裁判に持ち込まれ或いは裁判に持ち込む必要が果たしてあったのか、もっと研究の成果に対する報酬について詳しく決めておくべきだった様に思えます。 今回の和解は、企業(会社)の利益から考えた場合、明らかに企業(会社)側に有利だった様に思えますが、理系の人間のとしては何とも後味の悪い結末でした。 『青色発光ダイオード(LED)』…日亜化学工業 vs元同社員 中村修二氏(49)カリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California at Santa Barbara)教授 争点…特許権の帰属(特許権移転請求)と発明対価の一部200億円(当初20億円→100億円→最終的に200億円)の支払い…報奨金?2万円受領済み 1審 2002/09/19(中間判決) 東京地裁…三村量一裁判長は、自由発明でなく職務発明とし、特許権は企業に帰属し、特許権移転請求は棄却。(判決) 2004/01/30(結審2003/10/24) 東京地裁…三村量一裁判長は、発明対価を604億円と認め、企業側に200億円(約33%)支払うように命じた。(判決)…職場で冷遇されながら、意地で研究を続けた… 2審 2004/04/22〜 東京高裁 山下和明裁判長 (審理中) 2005/01/11 東京高裁 (和解) 6億857万円(遅延損害金を含み8億4391万円) 『フラッシュメモリー』…東芝 vs元同社員 舛岡富士雄・東北大学電気通信研究所教授(60) 争点…発明対価200億円の原告側貢献度20%、企業側貢献度80%としての40億円の一部10億円…数百万円は受領済み…市場規模1兆円に達するという予測 1審 2004/03/02 東京地裁 **裁判長は、東芝に妥当対価額を10億円としてその支払いを命じた。(判決) |
会社員の発明に対しての報酬(発明対価) その1
会社員がその企業(会社)内で発見発明したものについて東京地裁ではとてつもない金額を企業(会社)が元会社員に対して支払えと言う様な判断を下しました。確かに、その企業(会社)はその発明で多大な利益を上げたことは事実であり、企業(会社)が、当該会社員に支払った対価(奨励金等)が2万円であったという事は、この企業(会社)があまりにもえげつないとも言えます。しかし、裁判官の出した結論もお粗末でした。 企業(会社)内の会社員が、全員素晴らしい能力の持ち主ばかりであれば問題ないのですが、一般的にはその様なことは有り得ません。(技術部門でも能力の無い者も居りますし、能力が有ってもチャンスに恵まれない者も居ります。能力など以外の別の次元の事としては、研究の補助をしてくれるスタッフも必要です。…これらの者にも企業(会社)は給与・賞与を支払わねばなりません。)又、企業は技術開発部門のみで会社が運営されている訳ではありません。総務部、資材部、営業部、広告宣伝部など様々な部課があります。さらに企業(会社)の利益から株主への配当も支払わねばなりませんし、現行設備の更新(実験材料の購入、実験機器・計測機器等の更新、生産ラインの調達・更新等…設備投資してゆかなければ、陳腐化した設備・機材のままになってしまいます。それこそ、新しい発明などできなくなってしまいます。)等さまざまな支出があります。 企業(会社)が出願する特許・実用新案の全てが直ちに商品になるものではありません。出願した特許等の、ごく一部が商品化されます。つまり、その間に企業(会社)は、特許権等の管理にそうとうな費用を費やします。仮に商品化したとしても、当初の特許が基本的なもので有れば、その特許等から派生した特許等に関しての管理もしなければなりません。(日亜化学工業の『青色発光ダイオード(LED)』に関しては、豊田合成梶A米Cree社(国内代理店は住友商事)、ローム梶A松下電器(低価格素子)、シチズン電子(白色LEDライセンス供与)、樺ゥ日ラバー、三洋電機、星和電機侃独Osram社、シャープ、米Lumileds社、サンケン電気、ソニー、台湾EPSTAR社、…等)果たして当該元会社員が、独力でこれらの処理を出来るかどうかも疑問です。また、特許等であるがゆえに、その特許等をかいくぐられてしまう場合も多々あります。この様な場合、その価値は、大幅に減殺されます。 これらのことも含めさらに、当該元会社員が、安心して研究に打ち込める環境を誰が与えていたのかも考慮すべきだと思います。企業(会社)内の一員として給与、賞与等を得ていたからこそ生活が安定し、研究に打ち込めたのではないでしょうか。又、当該元会社員が個人で、実験材料を調達し、実験機器・計測機器等全てを調達し、導入し、利用使用できたか非常に疑問です。 企業(会社)も研究開発に対する報償の見なおしをせざるをえない状況ですが、成果報酬を厚くするのであれば、失敗して成果が上がらない(得られない)場合は、研究費の無駄使いになる訳ですから当該元会社員と同様の立場にある研究員はペナルティーを取られることにもなるように思われます。 この様な判断は、企業(会社)に所属(勤務したことがない)したこともなく、さらに理系に関して殆ど知識のない者の一方的な判断です。文才が有ってベストセラーの本を出版する、音楽に精通していてヒット曲を作詞作曲歌唱する等で有れば、それは全て当人の実力ですから、貢献度100%で、全額当人の収入になりますが。(自費出版の書籍、シンガーソングライターの場合です。…それでも出版社や発売元に対しての費用は必要ですが。) このような判断を下した裁判官の浮世離れした考え方こそが、現在の司法そのものの姿である様にも思えます。一般社会・国民生活から隔絶された世界に居ては、一般社会・国民生活などわかる筈もなく、一般社会・国民の常識から遥かに隔たった判断がなされるのは当然の様に思えます。一般常識のない者が裁判官になっているという一例の様に思えてなりません。 ノーベル化学賞を受賞した島津製作所の田中耕一氏は、発明の特許に関し、当時1万1000円しか企業(会社)から受け取っていません。企業(会社)の同氏に対しての対応の速さもさることながら、同氏の発言・行動にすがすがしさを感じるのは私だけでしょうか?(企業(会社)のトップの者が、理解できないでも、関係者が評価した好例です。…MS-WINDOWSも全世界で使用されておりますが、アイコンの発明はAppleではなくXEROXだったことは存外知られていないようです。当時のXEROXのトップには現在のような利用状況は想像もつかなかったのかも知れません。) 参考事項 高額発明対価に関しての元社員側代理人弁護士は、日亜化学工業の『青色発光ダイオード(LED)』、日立製作所の『光ディスク駆動装置(読み取り装置)』、東芝の『フラッシュメモリー』訴訟で、勝訴している、升永英俊弁護士(61)が知られていますが、同弁護士は年収8億円を超えるとみられ、弁護士仲間からも羨望(せんぼう)のまなざしが向けられているそうです。また、「日本が『知財立国』として生き残るには、技術者が目の色を変え研究に打ち込める環境を作るしかない」とも語っているそうですが、企業サイドでは「『青色発光ダイオード(LED)』の中村訴訟の支払額は法外だ」と批判を強めているそうです。某記事によりますと、「升永氏は一匹オオカミタイプといえるが、企業法務が複雑化する中では少数派になりつつあり、弁護士の「組織化」が進んでいる。」と有りましたが、私には、ハゲタカ・ハイエナのたぐいに思えてなりません。(原爆・水爆等の兵器に関しても、特許等で有れば代理人になりそうな人物のように思えて仕方有りません。) 『青色発光ダイオード(LED)』…日亜化学工業 vs元同社員 中村修二氏(49)カリフォルニア大学サンタバーバララ校(University of California at Santa Barbara)教授 争点…特許権の帰属(特許権移転請求)と発明対価の一部200億円(当初20億円→100億円→最終的に200億円)の支払い…報奨金?2万円受領済み 1審 2002/09/19(中間判決) 東京地裁…三村量一裁判長は、自由発明でなく職務発明とし、特許権は企業に帰属し、特許権移転請求は棄却。(判決) 2004/01/30(結審2003/10/24) 東京地裁…三村量一裁判長は、発明対価を604億円と認め、企業側に200億円(約33%)支払うように命じた。(判決)…職場で冷遇されながら、意地で研究を続けた… 2審 2004/04/22〜 東京高裁 山下和明裁判長 (審理中) 『光ディスク駆動装置(読み取り装置)』…日立製作所vs元同社員 米沢成二氏(65) 争点…発明対価9億7000万円の一部2億5000万円の支払い 1審 2002/11/29 東京地裁…森義之裁判長は、日立製作所に3489万円の支払いを命じた。…原告の貢献度14%、共同研究者の貢献度6%、企業側貢献度80%として(判決) 2審 2004/01/29 東京高裁…山下和明裁判長は、日立製作所に約1億2800万円(1審分を含め1億6284万円?)の支払いを命じた。地裁判決の一部取り消し。(判決) 『レーザービームプリンター(LBP)などで用いられている高画質印刷を可能にする技術』…キャノンvs元同社員 争点…発明対価約458億円の一部10億円の支払い…発明奨励金85万円受領済み 2003/10/20 東京地裁 (提訴) …「1968年に、私がキヤノンを就職先として選んだ最大の理由は、当時の御手洗毅社長の起業家精神と創業の精神である三自の精神(自覚、自発、自治)に魅せられて、夢と希望を抱いたからでありました」――。 『フラッシュメモリー』…東芝 vs元同社員 舛岡富士雄・東北大学電気通信研究所教授(60) 争点…発明対価200億円の原告側貢献度20%、企業側貢献度80%としての40億円の一部10億円…数百万円は受領済み…市場規模1兆円に達するという予測 1審 2004/03/02 東京地裁 **裁判長は、東芝に妥当対価額を10億円としてその支払いを命じた。(判決) 『フラッシュメモリーの基本構造』…三菱電機 vs元同社員沖縄県在住(40代♂) 争点…発明対価2億円 2003/10/28 那覇地裁 (提訴) 『ビデオディスク装置』…オリンパス光学vs元同社員 争点…発明対価約28億円の一部5228万9000円…報奨金約21万1000円受領済み 1審 2審 3審 2003/04/22 最高裁第3小法廷 上田豊三裁判長は、1、2審を支持、企業側の上告を棄却し企業側に約228万9000円の支払いを命じた。…貢献度5%(企業側利益5000万円の内250万円(228万9000円+21万1000円)) 『人工甘味料「アスパルテーム」(味の素の商品名「パルスイート」)の製法に関する特許…低カロリーで砂糖*200の甘さ』…味の素vs 元同社員 成瀬昌芳氏(63) 争点…発明対価100億円の一部20億円の支払い請求(2002/09/14提訴)…職務発明に対する報奨制度が有り1000万円の報奨金を受け取っている 1審 2004/02/24 東京地裁 高部真規子裁判長は、企業に対して1億8900万円(発明対価は約1億9900万円とし1000万円の報奨金分を相殺した。)支払うように命じた。(判決)…1982年社員6人での共同開発、…研究員→工場長→関連会社社長…企業が厚遇しても適正評価されない。 『ビタミン成分の一種「イノシトール」の製造法の開発』…親会社(昭和産業)と敷島スターチvs元同社員三重県鈴鹿市の食品化学技術コンサルタントの小川洋氏 争点…発明対価(営業利益の80%)の一部15億9000万円の支払い…顕著な功績?10万円受領済み。 2002/10/02 東京地裁 (提訴) 『建築用金物の意匠、実用新案』…カネシンオリジナルvs元同社員 争点…社員の貢献度65%として3090万円 1992/09/30 東京地裁 1290万円の支払いを命じた。 『「密封容器の密封不良および変形検出方法並びに装置」に関する特許』…ニッカ電測vs元同社員 争点…89万円を実施料相当額とし社員の貢献度60%会社側貢献度40% 2002/09/10 東京地裁 52万円の支払いを命じた。 『「希土類−鉄系合金からの有用元素の回収方法」に関する特許』…三徳vs元同社員 争点…社員の貢献度50% 2002/05/23 大阪地裁 200万円の支払いを命じた。 ■TV番組紹介 クローズアップ現代 「特許は誰のもの 〜問われる社内発明の報酬〜」 ※放送日時 1月30日(水) NHK総合 19:30〜1955 BS-1 21:30〜21:55 ハイビジョン 22:55〜23:30 「巨額な利益を生み出した発明への報酬はいくらが妥当か?を問う裁判が、今、争われている。(中略)青色発光ダイオード裁判をきっかけに、特許をめぐる評価や報酬はどうあるべきかを探る」 |