交通事故における振動学と波動に関しての考察

交通事故における振動学と波動に関しての考察

 交通事故における『鞭打ち損傷』(所謂『鞭打ち症』とも言われる。)は、自動車社会の発展当初、様々なとらえ方をされ、著しく人権を無視した様な『怠け者の詐病。』『被害者意識によるもの。』『賠償金の増額のため。』『気のせい』等、多くの場合『心因性反応』としての取り扱いを多々受けて参りました。しかしながら、自動車社会の先進国で、その内容が解析されるに至り、その存在は誤魔化しようがなくなりました。
 『鞭打ち損傷』の存在は、既に1928年(昭和3年…戦艦の艦載機のパイロットに関してのものだったそうです。)リポートとして発表されておりましたが、日本では、ようやく1958年(昭和33年)になってその存在が認知されたとの記載があります。
  しかしながら、日本の自動車社会は昭和40年代前半になって隆盛した為、その間の交通事故被害者の多くが、多少なりとも上記の様な罵声を浴びせられました。(民間損害保険会社の中には、それに便乗したものも多々有った様です。)ところが、この『鞭打ち損傷』によって自殺する者、神経症になる者等も増加し、社会問題として取り上げられる様になり、『鞭打ち症は認めないが、頸椎捻挫、頸椎神経根症、バレー・ルー症候群、頸部脊髄症等なら認めましょう。』との言い回しに変化して参りました。現在でも、過去のお粗末な取り扱いを、覆い隠すために「受傷起点」と「傷病名」をすり替えただけで、『鞭打ち症というものはない。』と相変わらず言い続けているようです。(もっとも、その様に言い続けなければ、過去の交通事故被害者には『嘘つき』と言われて、顔向けできないでしょうが。)
 この様に『鞭打ち損傷』の歴史は、
第一期目…  前記の様に、その存在すら否定された時代が有り、
第二期目…  存在の可能性があると言われた時代があり、
第三期目…  存在はするが、程度としては大勢に影響なしとされた時代があり、
第四期目…  不十分だが、理工学的に解析され、一定条件下でのデータの収集には無理がある事が判り、無傷限界値理論等にも限界があること等が判明した。
第五期目…  『鞭打ち損傷』の発生の可能性は認めるものの、発生部位は頸部のみとし、その部位には何ら影響せず、従ってその他の部位での発生はあり得ないとしています。(現在の主流とされております。)又、前記の理工学的な解析に関しても、『鞭打ち損傷』は「追突型」「正面衝突型」「前記両型のオフセット型」等が考えられますが、その一部分でのみの実験に終始しております。(この様な状況下では、断片的な情報のみが一人歩きしてしまいます。)
第六期目…  現在は、『鞭打ち損傷』発生時には、胸・腰部にも傷害が発生しても不思議はない。と言うところまで来ております。
  ところが、『鞭打ち損傷』の発生部位は頸部のみで、他の部位には何ら影響しないと言う説は、中学校の理科、高等学校の物理学と地学程度の検討によって、容易に排除されます。以下の説明からも容易に証明できるものです。(大学では、『振動(力)学』『波動(力)学』に属します。)

  交通事故での『鞭打ち損傷』に何故『振動学』『波動学』であるか疑問に思われるでしょうが、現在の『鞭打ち損傷』の解析は、ほとんど頸部付近での外傷を想定しているため、その部分での解析ばかりが先行しております。ところが、別添の『振動学』の教科書の抜粋の図を見ていただければ容易に判りますが、『はり』の曲げ振動には次の5種類が想定されます。
1. 両端支持の場合
2. 両端固定の場合
3. 両端自由の場合
4. 1端固定・他端支持の場合
5. 1端固定・他端自由の場合
  この中の3.の『両端自由の場合』が、実際の『鞭打ち損傷』の場合考えねばならない筈の振動です。(頸部付近にとどまらず、胸腰臀部までの損傷が当然考えられる受傷状況になります。)
 しかしながら、現在は 5.の『 1端固定・他端支持の場合』を『鞭打ち損傷』の一般的な考え方の基準にしているようです。 (頸部付近の損傷にのみ限定した受傷状況になります。)
  発行所 鰍ャょうせい 著者 羽成守・藤村和夫 による『検証 むちうち損傷−医・工・法学の総合研究』にも記載されております様に、決して頸部付近の損傷にのみ限定した受傷状況にはなりません。頸部のみの損傷、無傷限界値論も否定されております。はしがき(頸部のみの損傷について)、P145、P151(無傷限界値論について)
  発行所 潟Rロナ社 著者 谷口修『改訂 振動工学』の挿絵からも容易に判りますが、もっと身近に街角で見る光景としては、菓子屋さんや薬屋さんの店先においてあるペコちゃん人形などの首振り人形(人形のクビの部分にバネがついており、頭部が自由に動く様になっているものです。)です。この人形の足元が、たまたま不安定な置き場所にあるときに、頭部をたたいたり、押したりしますと当然頭は動きますが、その振動の影響で、人形の足元もグラグラと揺れます。…この例が、上記3.の『両端自由の場合』です。(もっとも現在は人形が倒れない様にガッチリ固定してある場合がほとんどですが。…この例が、上記5.の『1端固定・他端支持の場合』です。)
  又、振動或いは波動の合成の関係からは、本来1種類の振動或いは波動の場合それ程大きな影響を及ぼさない場合でも、『振動学』での2種類以上の振動或いは波動の合成によって『唸り』の状態が発生し、通常では考えられない様な大きな波形を作ります。(『振動学』での波形の大きさは、エネルギーとの相関があります。)
  さらに、この振動の影響は、質量の分布にも大きく影響されるということは、地震の際の地震波の到達が、地殻の形状や質量に大きく影響されることは、高等学校の理科の教科書等にも記載されております。(振動と波動はその周期性によって言い方が異なるようです。)当然人体も頭部、頸部、胸部、腰部、臀部等で各々密度も質量も様々ですので、多岐多様な振動の合成したものになる筈です。
  この様に、『振動(力)学』『波動(力)学』の観点から、交通事故の『鞭打ち損傷』発生時には、頸部付近にとどまらず、胸腰臀部までの損傷が当然考えられる受傷状況になります。

参考文献リスト
  発行所 鰍ャょうせい 著者 羽成守・藤村和夫 
  『検証 むちうち損傷−医・工・法学の総合研究』
  発行所 潟Rロナ社 著者 谷口修
  『改訂 振動工学』
  発行所 轄u談社 著者 藤井清・中込八郎
  ブルーバックス『見てわかる力学』写真で楽しく学ぶ本
  発行所 滑笏g書店 訳者 富山小太郎
  『ファインマン物理学 U』
  発行所 東京書籍 編者 「新 観察・実験大辞典」編集委員会
  『新 観察・実験大辞典[物理編]A熱光音/波動/電磁気』
  発行所 滑笏g書店 編者 金森博雄
  地球科学選書『地震の物理』







2004.01.11