商法第二問
 甲山一郎は,有名なテレビタレントであるが,同人の高校時代からの友人であるAは,洋服店を開業することを計画し,その商号を「ブティック甲山一郎」としたいと考えた。 そこで,Aは,甲山に電話で,「今度,洋服店を始めたいが,その際に君の名前を使ってよいか。」と尋ねたところ,甲山は,「自分の名前が広まるのは大歓迎であり,どんどん使ってほしい。」と答えた。Aは,「ブティック甲山一郎」の商号で洋服店を開業したものの,その後半年もしないうちに,持病が悪化したため,営業から引退することを考え,洋服店の営業を知人のBに譲渡することにした。Aから営業譲渡を受けたBは,「甲山一郎ブティック」の商号で洋服店を開業した。
 Aの債権者であるCは,甲山又はBに対して弁済を請求することができるか。
 Bの債権者であるDは,甲山に対して弁済を請求することができるか。


 小問1について
(1)  甲山に対する請求について
 Cは甲山と取引したものではなく、甲山への請求は認められないのが原則である。しかしCとしては甲山の名板貸人責任を追求し(23条)、弁済を請求することはできないか。
 名板貸人責任が認められるためには、同条が第三者に自分の名義使用を許諾した者は自らが営業主体であると誤信して第三者と取引したものに対し責任を負うべきとの外観法理に基づく責任であることから、@営業主体を誤る外観の存在、A名義使用許諾者が営業主であるとの第三者の信頼、B外観作出に対する帰責性、そしてC取引によって生じた債務であることが必要である。
 本問の場合、「ブティック甲山一郎」との商号が用いられており、これを目にすれば営業主体は甲山一郎であると通常は考えると思われ、@営業主体を誤る外観が存在する。そしてかかる商号使用について甲山は承諾を与えており、B帰責性が認められる。そこで、Cの債権がAとのC取引によって生じた債務であって、かつACが営業主体が甲山であると信じていた場合には、Cの甲山への請求は認められる。
(2)  Bに対する請求について
 CはBと取引したものではなく、Bへの請求は認められないのが原則である。しかし、CとしてはBの営業譲受人責任(26条1項)を追求し、弁済を請求することができないか。
 営業譲受人責任が認められるためには商号の続用あることが必要であるが、本問ではAは「ブティック甲山一郎」という商号を用いていたのに対し、Bは「甲山一郎ブティック」という異なる商号を用いていることから、商号の続用が無いことから問題となる。
 思うに同条の趣旨は商号の続用がある場合には営業主体に変更が無いとの債権者の信頼を保護する点にあり、かかる信頼は商号の完全な続用が無くとも社会通念上同一と認められる程度の類似の商号が用いられた場合にも生じる。そこで、このような場合にも同条を類推して保護を認めるべきである。
 これを本問についてみると、「ブティック甲山一郎」と「甲山一郎ブティック」とは順番が入れ替わったのみであり、両者を見れば通常人は同一のものと考えると思われ、社会通念上同一と認められる程度の類似性がある。
 よって、このような商号を用いているBに対し、26条の類推によりCは弁済を請求することができる。
 小問2について
 Dは甲山に弁済請求できないのが原則である。
 しかし、Dとしては甲山の名板貸人責任を追求して弁済を請求することはできないか。
 この点、まず@外観の存在は小問1同様に認めうる。しかし、甲山が自己の名前を用いて営業することを許諾したのはAに対してであり、Bに対しては許諾してはいない。そこでB帰責性は認められないとも考えられる。
 しかし、前述のように名板貸人責任は外観法理に基づく責任であり、商号が続用されているような場合に、それを知って異議を唱えず外観の存在を撤回する措置をとらずに放置した場合には、明示の承諾があった場合と同様の帰責性を認めることができる。そこでこのような場合には黙示の承諾があったものとして、B帰責性が認められるというべきである。
 よって、甲山がBの営業を知って放置していたような場合には、CDの債権が取引によって生じたものであり、かつA甲山が営業主体であると信じて取引した場合であれば、Dは甲山に対し弁済を請求することができる。
以上

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