民訴法第一問
 訴訟手続の進行に関する民事訴訟法の原則と当事者意思の反映について論ぜよ。



 民事訴訟は私人間の紛争の公権的解決であり、対象が本来私的自治の原則の適用される私法関係であることから、訴訟の開始・終了や訴訟資料の収集・提出面では処分権主義・弁論主義が適用される。他方、訴訟の進行面では裁判所が主体的役割を演じる職権進行主義が原則となる。
 これは、民事訴訟があくまで公権的解決であり、また有限な司法リソースを有効・円滑に活用し、大量の訴訟を公正かつ迅速に解決するという民事訴訟の目的(2条)を達成するためには、裁判所が訴訟の主催者として進行をコントロールすることが望ましいからである。即ち当事者に訴訟の進行をゆだねると、徒に争点審理が混乱し、適切・迅速な解決が果たせなくなる危険があるからである。また、同時に裁判所が適切に進行を整理することで、かえって当事者の保護も図ることが出来る。
 職権進行主義の具体的表れとしてはまず、裁判所は訴訟指揮権を有し(148条1項)、訴訟進行を適切に整理することが期待される。そしてそれを実効的に果たすために法廷警察権(裁判所法71条)が認められる。
 また、裁判所は期日を指定し(93条1項)、送達を行う(98条)。そして争点を適切に整理し、事案を解明するために準備的口頭弁論を行うかを決定し(164条以下)、弁論準備手続に付し(168条以下)、あるいは書面による準備手続を行う(175条以下)。
 そして明らかになった争点について的を絞った適切な訴訟進行を図るべく、弁論を制限・分離・併合し(152条)、また終結した口頭弁論を再開する(153条)。
 口頭弁論においては、当事者の申し出た攻撃防御方法について時機に遅れたものは却下し(157条)、釈明権を行使し(151条)、証拠についてその要否を検討し、採否を決定する(181条)。裁判所は原則として自由にその採否を決定できるが、それが唯一の証拠方法の場合には却下は慎重になされるべきである。
 そして、裁判所は訴訟が裁判をするのに熟した時は終局判決を行い訴訟を終了する(243条1項)。これは裁判所の最も重要な役割である。また判決は訴訟の一部について(同条2項)、あるいは中間の争いについても可能である(245条)。
 以上のように進行面では原則として職権進行主義が採られている。もっとも、民事訴訟はあくまで私人間紛争を対象とし、可能な限り当事者の意思に沿った紛争解決がなされることが望ましい。そこで訴訟進行面においても、当事者意思の反映される場合がある。以下、具体的に述べる。
 まず、当事者は裁判所の訴訟の指揮について異議を申し立てることができる(150条)。これは当事者の意思を手続進行面について反映させるものであると同時に、裁判所の訴訟進行が適切になされているかを当事者が監視するものであるという点で重要な意義を有するものである。
 次に、当事者は期日について申立てることができる(93条1項)。これは民事訴訟について当事者の手続保証を図る必要があり、当事者にとって都合のいい日時に期日が設定されることが望ましいからである。
 また、裁判所は弁論準備手続に付す場合には当事者の意思を聞く必要がある(168条1項)。これは、弁論準備手続が公開が限定的であるなど正式の法廷で口頭弁論手続により行われるものではないことから、当事者の意思に沿ってなされるべきものであるからである。
 そして、一方当事者が欠席している場合に裁判所が現状判決をすることは、出席当事者の申出が必要である(244条後段)。これは、現状判決が当事者に対する制裁という趣旨のものではなく、一方当事者の不熱心により出席当事者が判決を得ることが不当に遅延することを防止する趣旨によるものであり、当事者いずれもが判決を望まない場合に判決をすることは適切ではないからである。
 最後に、当事者間で訴訟上の合意をすることで訴訟進行を制限できるかが問題となるが、前記訴訟経済上の要請から任意訴訟は禁止される。そこで訴訟上の合意に効力が認められるのは、処分権主義・弁論主義の範囲内のみであり、訴訟進行はあくまで裁判所にゆだねられるというべきである。
以上

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