拭いて死ぬ

ミヤケンの書く字は速い
原稿用紙の裏も表も関係なく書いて
あっちを消したりこっちに書き込みをしたり
元気なミヤケン
立派なミヤケン
病の床についているときでさえ
肥料相談にのるミヤケン
からだを消毒液で拭いてから死に赴こうとしているミヤケン
ぼくも死ぬときはそういうことができるようであってほしいミヤケン
けれど死に方はきっとあなたとはちがうミヤケン
ぼくはあなたのように親より先には死なないミヤケン
できるだけ生まれたきた順番で死んでいきたいからミヤケン
それがいちばん穏当でそれがいちばん不幸が少ない死に方なんですミヤケン
ぼくは青空の下で死んでいきたいんですミヤケン
病院でもなく、自宅でもなくミヤケン
森からおりてきたところにある海のそばでミヤケン
耳を澄ませば森の鳴っているのが聞こえる場所でミヤケン
脚を伸ばせば波がぼくのかかとをことができる場所でミヤケン
ぼくは海辺にデッキチェアをもちだしてもらい
だらしなくヘロヘロでそこにねそべっているんですミヤケン
あんまり暑くない時期がいいなミヤケン
汗をかきながら死ぬなんていうのはちょっと敬遠したいなあミヤケン
自分の誕生日あたりがいいなミヤケン
いつのまにかこときれているのがいいなミヤケン
チューブも酸素吸入器もいらなくてミヤケン
ぼくはぼくが死ぬところをだれにも目撃してほしくないんですミヤケン
ぼくの死がだれかに感染していかないようにミヤケン
死の恐怖が感染していかなすようにミヤケン
死ぬなんてただ会えなくなるだけのことだものミヤケン
離れて暮らしていることといっしょだねミヤケン

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