万字物語 |
遥か北の果て、空知の山峡にかつて万字という炭鉱町があった。 もちろん、既に炭鉱は過去のものとなり、最盛期には5千人を超えていたというこの町の人口も今では200人に満たないという。 というわけで万字を訪問する前に、町と炭鉱の歴史をざっと勉強しておきましょう。 【万字炭鉱】明治36(1903)年に、現在の北海道空知郡栗沢町に開鉱した50万トン級の炭鉱。 「万字」の名は所有者であった朝吹家の家紋(卍)に由来するという。 開設初期は三角山を越えて夕張へ送炭していたが、大正3(1914)年に岩見沢より国鉄万字線が開通。 これとほぼ時を同じくして「北炭幌内鉱業所万字炭鉱」となった。 しかし、国内炭の衰退とともに産出量は減少し、昭和50(1975)年8月の台風で坑道が完全に水没したことが原因で昭和51年3月に閉山 。 送炭機関であった国鉄万字線はその後も営業を続けていたが、沿線の過疎化により第一次廃止対象路線となり昭和60(1985)年3月に廃止。 |
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駅前 | 旧万字駅舎 |
旧万字駅前はかなり広く、かつてはたくさんの人や車で賑わっていたのだろうと思われる。 しかし、閉鉱から約三十年、廃線後二十年近い時間が経過した現在ではご覧のとおりで、駄菓子屋の一軒さえも存在しない。 旧駅舎は簡易郵便局として再利用されており、停留所も「万字郵便局前」になっている。 今日は土曜日で郵便局も営業しておらず、誰もいない。静寂の中でコスモスがさみしげに風に揺れていた。 |
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何もあらせん | 駅前メインストリート |
駅前通りを南下していく。 廃屋と草叢が交互に連なる、何とも寂寥感漂う光景が続く。 それでも、ごく僅かながら有人家屋も存在する。 大変失礼ながら、何を生業とすればこの町で生活していけるのだろうかと思う。 |
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廃墟 | 蔵壁 |
「←万字炭山」の標識に従って小道に分け入る。 万字線の終点は万字炭山駅であった。線路の痕跡を捜してみるが、よく分からない。 谷底の川べりまで下っていくと、何なのかよく分からないが昔はさぞ立派だったのだろうと思われる建造物の廃墟がある。 人影を目撃する。ここにもまだ、人が居た。 |
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さらに奥へ | 謎の電話ボックスと廃車体 |
駅跡? | 馬 |
狭い山間を進んでいくとほんの少しばかりの平地が開け、牧場がある。 小さな馬がぽつんと一頭、草を食んでいる。 道路から遠く離れた放牧地のはずれにいきなり電話ボックスが立っている。もう使用されていないようであるが、なんとも異様な光景である。 恐らくここが、万字炭山駅の跡なのだろう。それにしても、えらいとこに駅があったもんだと思わずにはいられない。 かつては炭鉱で栄えた終着駅ならば駅前旅館の一軒くらいは当然あったと思うのだが、そのような痕跡は全く見当たらない。 |
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ホームの跡 | 崖の上から駅跡を望む |
↑万字炭山駅 | わずかに残る民家 |
何とも腑に落ちないままさらに歩を進めると、ホームの残骸のようなものが現れる。 やはり、ここに駅が存在していたことは間違いなさそうである。 ここから先は整備されて公園になっているようだが、見に行っても仕方なさそうなので割愛し、崖沿いの坂道を通って谷底から這い上がる。 と、風化してしまってほとんど読めないが、「↑万字炭山駅」の標識が残っている。 やはり、さっきの場所に、二十年前はたしかに駅が存在したのである。 |
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万字小学校閉校記念碑 | 万字小学校校舎 |
国道に戻り、夕張方面へ向かって坂を上っていくと万字小学校の立派な校舎が現れる。 田舎の小学校としては相当に巨大な建造物である。かつては、たくさんの子供たちがここに通っていたのだろう。 しかし、今は閉鎖されてしまって誰もいない。 玄関前には立派な閉校記念碑と、校歌の楽譜が刻まれた碑が建てられている。切ない。 体育館はスポーツセンターとして再利用されているようだったが、果たして利用者はいるのだろうか。 |
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ホントに駅跡なのか? | 交通センター |
少し戻ると、万字交通センターがある。 と、ここに万字炭山駅跡碑と踏切が立っている。 しかし、万字炭山駅はここではないはず。これはいったい、どうなってんの? さきほどの谷底の牧場は確かに碑を建てるのに相応しいような場所ではなかったが、だからといって全然違う場所を「跡」と言い切ってしまっていいのだろうか。 それとも、駅は本当はここに存在したのだろうか?では、さっきのホームの跡や不気味な電話ボックスは何だったのだろう。 あるいは、もう駅の跡もわからなくなるほど、人々の記憶が薄れてしまったのだろうか…。 何だかもうさっぱり分かりませんが、それはともかく、何もかも無くなってしまう前に万字を訪れることが出来たことを大変嬉しく思っております。 ※その後の調査で、やはりこの万字炭山駅跡碑は事実と違う場所にあることが判明しました。 |
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