カーズが見せた慈愛の正体

■カーズはジョジョ2部における主人公ジョセフ・ジョースターの敵であり、「柱の男」と呼ばれる4人の闇の眷属のリーダーである。その性格は理性的で計算高く、また人を惨殺することに何も感じない冷酷なものである。しかし一方で彼は作中において、車に轢き殺されそうになっていた「子犬」を助けたり、自分の落下位置にある「花」を潰さないように全力で回避したりしている。普段のカーズの性格に似つかわしくない、一見慈愛的ともとれるこの行動の理由を知るヒントは、7部になって提示された「黄金長方形」の概念にある。

■黄金長方形とはジョジョの世界において、人間と闇の眷属を除く全ての動植物の姿に隠されている「黄金の比率」である。それは生命が歪みなくスムーズに成長していくための正しいバランスを表し、例えばカタツムリの殻はこの比率に従って成長することで、脱皮することなく殻を大きくしていける。そしてこのような「黄金の比率」とは別の言い方をすれば、躓かずに滑らかに歩いていける「生命の正しい道」を表すものでもある。

■一方で人間という生物は、良くも悪くも「生命の正しい道」から外れることができる力を持っている。そしてその力がゆえに人間は、動植物には不可能なレベルでさまざまな可能性を模索して、迷路を先に進むように「未来を切り拓く」ことができる。しかしその力がために人間の肉体と精神には黄金長方形は宿らない。ゆえに7部でジャイロ・ツェペリが「黄金長方形」の力を使う際には、その都度人間以外の動植物を見て「黄金の比率」を再確認しなくてはならない。

■そしてジョジョ1〜2部に登場する吸血鬼や柱の男など「闇の眷属」は、人間の肉体よりもさらに著しく「生命の正しい道」から外れた肉体を持っている。この性質は彼らに生物の常識と限界を超えた肉体能力を与える。しかし同時に彼らの肉体は、本来は生命に恵みを与えるはずの「太陽の光」と対立し、闇が光にかき消されるように太陽光を弱点とすることになる。

■高い知力を持つカーズは自分や他の動植物を深く研究して、自分の宿命である「太陽の光」の克服を目指してきた。そのさなかに彼は、他の動植物と自分との決定的な差が「黄金の比率」の有無にこそあると気づく。そしてさらに彼はジャイロ・ツェペリのように、動植物に宿る「黄金長方形」(あるいはそれと同等の何か)が見えるようになった。そしてこれこそが、カーズが作中で子犬や花を守った理由である。彼は自分が心から欲する「黄金の比率」を宿す動植物が壊れたさまを目にするのを嫌い、可能な限りそれを守ろうとするのである。

■ただしこの理由は、カーズが正しい心根を持っていると示すものではない。ジャイロ・ツェペリは生命に宿る黄金長方形を「敬意を払うべきもの」であると常に語っていた。反面カーズは、太陽を克服した完全な生物である「究極生命体」となった直後に、近くにいたリスを戯れに殺している。その行動は、カーズにとって生命に宿る「黄金の比率」は、自分の目的を叶えるための道具でしかなかったということを示している。ゆえに彼は自分自身がそれを手に入れた途端一転して、他の動植物にこれまで見せてきたある種の慈しみを完全に失ってしまったのである。

■究極生命体となったカーズは人間ジョセフ・ジョースターと最後の決戦を行い、結果敗れて宇宙へと追放される。それはあるいは、生命への敬意という「黄金の精神」を持たないまがい物の完全生物に対して、地球と世界が下した審判なのかもしれない。