ジョルノ・ジョバァーナの「天国」への貢献
■ジョジョ第6部「ストーンオーシャン」には、DIOの3人の息子たちが登場する。彼らはプッチ神父という名の、DIOの遺志を継いで「天国」を目指す人物と出会い、彼の目的を後押しすることになる。それはプッチ神父に言わせると、彼らの使命であり生まれてきた意味である。
■ここで読者が必然的に思い出すのは、DIOのもう1人の息子、言わずと知れた第5部の主人公、ジョルノ・ジョバァーナのことである。彼も他の3人の息子たちと同じく、「天国」の実現を後押しする使命を背負っていたのか、もしそうだとするなら彼は「天国」のために何かをしたのか、それとも何もしなかったのか。ここではそれについて述べる。
■まず、「天国」とは何かについてざっくり説明しておく。「天国」とは、個人の人生や人類の歴史などにこれから起こる、全ての未来が運命として確定され、誰もそれを覆すことができない世界である。それには「世界と全人類に絶対の幸福をもたらす」という効果があるのだが、ここでは深くは触れない。(詳しくは『メイド・イン・ヘブン』の個別スタンド解説を参照のこと)
■次に、ジョルノを主人公とする第5部のラスボス、ディアボロが持つスタンド能力「キング・クリムゾン」についてもざっくり説明しておく。「K・クリムゾン」は、時間を消し飛ばして時間を飛び越え、その時間内に自分に降りかかるあらゆる危険な運命を無力化できるという能力である。この能力は「トト神」や「ドラゴンズ・ドリーム」のような運命改変能力とは次元が全く異なる。それらの能力が「危険な運命から自分を遠ざけその発生確率を下げる」ものであるなら、「K・クリムゾン」のそれは、「危険な運命自体を消してその発生確率をゼロにしてしまえる」のである。「K・クリムゾン」がここまで特異な能力であるのには、本体ディアボロの特異な出生が関係しているのだが、それもここでは深くは触れない。(詳しくは『キング・クリムゾン』の個別スタンド解説を参照のこと)
■もしディアボロが世界の一員として存在したまま「天国」が訪れた場合、何が起こるのか。それは「天国」の崩壊である。仮に、「天国」によって確定された未来の歴史を、天へと伸びる一本の塔だとする。塔は下の過去から上の未来へと、出来事のレンガを積み上げて出来ている。その塔は非常に強固で、本来なら誰にも傷一つ付けることはできない。が、その唯一の例外がディアボロである。ディアボロが「K・クリムゾン」を使い、「天国」で起こるべき運命の出来事を1つ消すたびに、「天国」はジェンガを抜き取られていくように少しづつ不安定化していく。そして「天国」という塔はシロアリに食い荒らされた柱のように、いつか必ず倒壊してしまう。
■つまり、「天国」が実現されるには、事前に必ずディアボロは倒されていなければならない。そしてそれを成し遂げたのが、他ならないジョルノ・ジョバァーナである。彼は他の3人のDIOの息子たちに先駆けること10年前に、すでに「DIOの息子」としての使命、それも非常に重要な使命を終えてしまっているのである。
■ただし、このことを以ってジョルノが「天国」に賛同する思想を持っていると考えるのは早計である。「世界を邪悪に向かわせる」(第5部ポルナレフ談)力を持った悪魔ディアボロは、それはそれで倒さねばならない存在であり、ジョルノは己の正義のもとにそれを行ったに過ぎない。上述した「DIOの息子としての使命」はまず間違いなく、彼自身にも計り知れなかった事柄なのである。