title.gif

トップページ > 翻訳トップ > 「ファンタジーの世界」

arrow_63.gif   「ファンタジーの世界」 講師:翻訳家 金原瑞人 


第一回 講座ポイント

ファンタジーの定義
-1960年代後半、「指輪物語」などが英米でヤングアダルト向けとして火がつく。
→第一次ファンタジーブーム

-日本では、「指輪」がブームになるまで、ファンタジーというジャンルは不在。
リアリズムに入らないジャンルとして、「幻想文学」、「異端文学」などと呼ばれていた。

-「指輪」後、多数のファンタジー作家が出現する。

-日本のファンタジー作家といえば、佐藤さとるなど。当時は「創作民話」と呼ばれていた。

-日本で、現在のような「ファンタジー」という定義が確立されるには、まだ時間がかかる。

神話
-アメリカ、イギリスには神話と呼べるものがない。英米のファンタジー小説が多いのは、これもひとつの理由か。

-イギリスでは、「ベーオルフ」、「アーサー王物語」が神話に近いもの。

-トールキンは、「指輪」をイギリスの創作神話にしたかった。ファンタジー=創作神話といっていい。

ゲド戦記(1969年)
-作者ル・グゥィンは、もともとSF小説を書いていた。

-児童文学者・翻訳家 脇 明子→ファンタジー小説についての考察:
   「魔法使いを主人公にした作品は、ファンタジーの新しい波である」

-ゲドでは、指輪のガンダレフの少年時代をモチーフにしている。

-「魔法」と「名前」がゲド戦記のベースとなっている。

-ゲドは、ネイティブアメリカンの思想をモチーフにしている。
これは、日本の「言霊信仰」と相通ずるため、ゲドは日本で人気がある。

-ゲドの背景には「陰」と「陽」の思想。バランスが崩れた世界をゲドが元に戻す。
新しい世界を新たに生み出すストーリーではない。ある意味ノスタルジックで保守的な世界。

-シリーズを通じて、遊びのように数字の「9」がよく使われている。

Low Fantasy とHigh Fantasy
-Low: Everyday Magic。現実の世界に魔法が登場する。
 例:砂の妖精、床下の小人たち、メリーポピンス

-High: 物語の世界がファンタジー。緻密に作り上げられた世界。
 子供が世界を救う。決してでたらめな世界ではない。秩序がある。
 例:ナルニア、指輪。

プロイスラー
「ファンタジーは凧のようなもの」。地面をリアリティとすれば、高く上げたほうがおもしろい内容になる。
しかし、地面にしっかりつなぎとめておける力も必要。

秩序のないカオス的なファンタジー
例:「ゴーメンガース」お城のなかで事件が起きる、ゴシックファンタジー。
「ぺガールの神々」ロン・ダンセーニ

ファンタジーは、逃避の場所として気持ちいい。
楽しい、美しい世界にさまようひとときを与えてくれる。

(2006年5月19日)


第二回 講座ポイント

日本のファンタジー文学
-雨月物語、泉鏡花、宮沢賢治に代表される。

-三遊亭円朝−江戸から明治への転換期に、伝統的な話芸に新たな可能性を開いた落語家。
代表作は「怪談牡丹灯篭」。
口語体文学の先駆者である。当時日本に導入された速記術によって、円朝の噺は速記本になり、新聞に連載されるなどして人気を博す。
これが二葉亭四迷らに影響を与え、言文一致運動につながっていった。
このころ創立された「講談社」は、もともと講談の速記本を売っていた。

-標準語は、政策の上意下達を円滑にするため、明治政府が作ったもの。

-「小説」は、18世紀にイギリスで誕生した。
日本では当初、小説は「女子供向けの庶民的な読み物」というジャンルだった。
イギリスにおける小説の変化

-時代が封建主義(王様→貴族→諸侯→騎士の縦社会)から資本主義に変わるとともに、小説の題材も変化した。
主人公が、「王様」から「一般人」へ。eg 「ロビンソン・クルーソー」、「パメラ」。
この時代の小説の特徴は、「リアリズム」。時間の経過、情景、登場人物が細かく描写されている。

恐怖小説の台頭
-18世紀にリアリズム小説が主流となるなか、恐怖小説も人気を博す。
eg メアリーシェリー「フランケンシュタイン」、ポリドリ「バンバイア」、レファニュ「吸血鬼カーミラ」、ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」など。

代表的な欧米の児童書
<第一期>
19世紀半ばに児童書が初めて台頭。
「水の子どもたち」1863年、「ふしぎの国のアリス」1865年。
この頃、グリム童話、アンデルセン童話が英訳される。
これらを基盤にしたのが、「たのしいムーミン一家」1948年(フィンランド)、「ピーターラビット」1902年

<第二期>
1965年に「指輪物語」がアメリカでベストセラーになる。
児童文学(ファンタジー)が、初めて注目される。1970年代に、英米で児童文学のジャンルが確立される。
この後、ミヒャエル・エンデのブームが到来するが、ファンタジーブームにはつながらなかった。

<第三期>
1997年に「ハリー・ポッター」シリーズ刊行。世界的なベストセラーになり、ファンタジーブームとなる。

小説とは?
これからは、ますます小説のジャンルが広がっていく。
読者が想像できる、リアルな世界が存在するファンタジーなども、取り込まれていく可能性がある。


講座に登場した文献

怪談牡丹灯篭 怪談乳房榎


ロビンソン・クルーソー

フランケンシュタイン

吸血鬼カーミラ

吸血鬼ドラキュラ

ふしぎの国のアリス

ピーターラビットのおはなし

新版 指輪物語〈1〉旅の仲間 上1

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)



(2006年6月3日)