The process of belief
内臓をえぐる様に蠢いていた指が ずるりと腸壁を撫で上げ、敏感な場所をかすめていった。萎えかけていたものが刺激に震え、背筋を痛みにも似た痺れが駈け抜ける。
「…すげっ …きっつ…」
背中から降りかかる声に心は煽られて、零れる声に耐えようと思わず強く唇を咬む。
焦らすように指を上下させ 言葉よりも熱い息を耳に吹き込みながら森田が囁く。
「声 聞かせて… イイんならイイって言って…」
余裕もないまま ただ首を横に振る。
そうでなくとも声などとうに枯れ果てている。口を開いたところで喉から漏れるのは皹割れた喘ぎ声でしかなく それすらも聞かすまいと腕で顔を覆いシーツに額を擦りつけた。
艶めかしい水音を立てているのは耳朶を食む森田の舌か それとも自らの意志に逆らって跳ねる己の腰なのか それすらも定かではなく、溶ける思考を繋ぎ止めようと震える拳に歯を立てる。
背を丸め声を潜めるその姿に気付いた森田は、胸に回していた指をゆっくりと口元へと伸ばすと、押し当てられていた腕を優しく払いのけた。
露わになった乾いた唇を汗ばんだ指がゆっくりと撫でる。その慈しむような仕草に思わず開いた口腔に容赦なく差し入れられた指は、歯列を辿り舌を弄ぶと 拘束具の様にその開いた口を固定した。
だらしなく開いたままの口の端から滴が零れることなど構いもせず、口内を弄る指に夢中になってしゃぶりつき舌を絡める。
抜き差しを繰り返す指を逃すまいと深く咥えながら、熱を持った下肢を支配するもう一方の腕に突き動かされるように腰を振り続ける。 それが雌以下の浅ましい姿と分かっていても、与えられる快楽を拒否することがどうしてもできない。 その腕がえぐり出したのは理性など及ばないもっと奥深いところに眠っていた自分の本性で、その汚さも醜さも一度さらけ出してしまえばもう後戻りすることは出来なかった。
若さや美貌などとは無縁で その上男で、重ね上げた悪業に両の腕は汚れきっていることも全てを承知の上で 「それでもあなたが欲しい」のだと男は言った。
こんな年寄りの体でその気持ちを繋ぐ事が出来るのならばお安い物だと思っていた。もとよりノーマルな嗜好の男だ、親愛や尊敬を履き違えただけに違いない。一度抱けば間違いに気付き懲りるだろう と。鼻白んだところに「だから言っただろう」と嘯いていい女の一人も宛ってやればそれで済むことだと決めつけていた。
けれどあれからどれだけ躰を重ねたのか 今はもう憶えてもいない。未だ飽くことなく なおかつ貪欲にこの体を貪る男の酔狂さに心が震える。執拗な愛撫の裏側に肉欲以上の何かを望んでいる自分は たぶん体だけでなく脳までもこの男に犯されているに違いなかった。
不意に後孔から濡れた音を立てて指が引き抜かれ、支えを失った下肢はぐしゃりとシーツの上に倒れこんだ。
体重を預けるようにして覆い被さってきた森田の密着した胸から、走り出しそうな心臓の音が直に背中に響いてくる。それと同時に同じように熱く脈打つものが躊躇いがちに双丘に押しつけられずるりと後孔の縁を撫であげた。
「 ……!」快感が目蓋を跳ね上げ 顳で弾けて肌が粟立つ。
溶けるような感覚から逃げるように揺らめきだした身体は自分でも止められなくて、その動きに煽られるように 張りつめた物のやるせなさが更に増していく様を痺れる頭で感じていた。
「 …銀さん ここ ヒクヒクしてる。 … ねぇ どうして欲しい? 」
「 つっ… 遊んでないで… 早く終わらせろっ… 」
やっとのことで言葉を繋ぎ 吐き捨てるように呟いて顔を背けると、ほんの少しの間の後で 急に体を返された。
シーツに転がり見上げた視線の先に汗にまみれた森田が見えた。
「…そんな風に言わないで。 …銀さんも気持ちよくなってほしいのに…」
笑いもなく真剣な、それでいてどこか困ったような瞳がまっすぐにこちらを見下ろしている。
こんな状況でそんなことを大まじめに諭されても まともに言い返すことなど至難の技で、真っ白な頭のまま言葉を失いその目をじっと見つめていると、包むような抱擁とくちづけが降ってきた。
「 お願いだから あんまり困らせないで下さい …もう アンタって人は…」
言葉とは裏腹に 有無を言わせぬ力で引き寄せられ潤みきった場所を押し広げられる。
「 ちゃんと言ってくれないんなら やめてくれ って泣き叫ぶまで止めませんよ。
いいですね…」
熱い息を吐く唇が頬を撫で回しながら言葉を塗り込めて行き、答えを聞き出す前に肉を割って熱がねじ込まれた。
白溶する視界に堪らず掠れた声を上げる。ぐずりぐずりと音を立てながら内側を浸食していく痛みに背中が跳ねると 髪を梳く指が止まり心配そうな瞳が覗き込んできた。
「 銀さん…?」
何を言うのも面倒で 項に腕をまわし貪るようにくちづける。口角を変え飲み干すように舌を絡め 息をすることさえしばし忘れてその行為に没頭する内に 痛みと快感の境界線はどんどんと曖昧になっていった。鼓動にシンクロする様に揺すり上げられる毎 意図もせぬ甘い息が唇から零れ落ちる。
「 愛しています… 愛しています… 」
呼吸をするように耳元で同じ言葉を繰り返し甘えるように頭を寄せられて、返事の代わりに高く上げた脚をきつくその体に巻き付けた。
お前の気持ちなど 百も承知だ。
子供じみた独占欲も、睦言を並べ立てずにはいられない程 その想いの裏に不安を抱えていることも。
望みが叶えば叶う程、さらに闇が深くなることを知っての上でこの身を預けた。
縫いつけるように押さえ込まれたまま 音を立てる程に腰を打ちつけられ、逃げようと背けた顎は引き戻されてまた口を塞がれる。それは愛されているというより喰われている感覚。
密着した躰の間で擦れた自分もまた熱を孕んで滑りを漏らし、その欲を放とうと更に大きく腰を畝らせる。獣じみた唸りをあげて上体を起こした森田は、粘つく腹の上でそれを捕らえるとねったりと握り込み上下に擦りたてながら、さらに加速を付けて躰を揺らした。
「 … も り た … 」
請うようにその名を呼び、肩に立てた指に力を込めて 限界が近いことを訴える。
「 … まだ ダメ … 」
森田は薄く笑いながら輪にした指を根本に滑らせると締め上げるように握りしめた。
沸き立つ欲は行き場を失い 骨の下で泡立って、鈍痛と共に背骨を駆け上がる。
「 …ちょ っ! 銀さん! …ち、 力抜いてっ…! 」
「 …イかせねぇって言うんなら … 喰いちぎってやろうか…?」
肩で息をしながら憎まれ口を叩くと、観念したのか 小さく息をついた森田は束縛を解き、その手で愛おしげに平井の躰を撫であげた。
「 少しは俺にも好きにさせて欲しいのにな…」
「 … 十分してるだろ? お前こそもう少し年寄りを労れ 」
軽口を叩きあっていても 欲しい気持ちは収まらず、言葉が消えたそばから またどちらともなく唇を重ね腕を絡める。何度となく互いの名前を呼びながら額を寄せ その身体の陰影全てを記憶するかのように全身を指で辿り そしてまた唇を重ねる。
突き立てられた欲はこれ以上ない程深くその身を貫いているのに心の渇きはさらに深く、繋がり合っている今がありながら目に見えない何かに恐怖して 痺れる程に強く抱きしめた。
全身に広がる痙攣と とろとろと先奔る雫に脳が痺れる。強請るように押し付けた腰を鷲掴みにされ高く持ち上げたまま揺さぶられると 箍の外れた快感は一気に頂点へと浚われた。震えの止まらぬ躰を持て余し堪らず肩口に歯を立て声を殺すと、もう許しを乞うことなどせず 先の丸みを包むようにして擦り立てていた森田の掌に何度も何度も自らを押し付けて精を吐きだした。
長く細く堪えきれない声を上げている間にも、腹の奥は擦りつけるようにして深く突き抉られ 一時の静寂の後 断続的に放たれた熱いものに 弛緩した躰は魚のように重く跳ねた。
「 … 森田… 重い… 」
行為が終わっても重ねた躰を離そうとしない男に焦れて腹をつつく。
「 …もうちょっとだけ このまま… 」
気怠いのか眠たげな声が耳元に返ってくる。
少しだけ躰をずらして その顔が見えるように顎を向けた。
「 …ねぇ 銀さん 」
返事もせずにぼんやりと目蓋を閉じたままの横顔を眺める。
「 …俺はねぇ 銀さんのこと …」
最後まで聞いてやりはしなかった。力任せに引き寄せて唇を重ねる。
口から零れたら消えてなくなるような言葉なんかで俺を縛るつもりか?
お前の気持ちなんか百も承知なんだ。
突然のことにどうしてよいのか分からないといった風の森田の表情に笑いを堪えながら 余韻を楽しむように唇が触れるか触れないかの距離で囁きかける。
「 森田… もしお前が不安で堪らなくなったり 何も信じられない気分になった時は
ただ俺の名前を呼べ。 それだけでいい 他はいらない。
どんな理由だろうがどんな場所だろうが 俺は必ずお前の側にいてやるから。 いいな…」
こくこくと首を振る男に自分の真意は伝わったのだろうか。
少々怪しいな と思いながら体を起こそうとしてシーツについた掌に、おずおずと伸ばされた手が重なった。
「 … 銀さん… 」
何だ? と聞こうとして はっと気付く。
シャワーを浴びるのは もう少し後になるかな…
ゆっくりと体の向きを変えて向き合うと、照れくさそうに森田が笑った。
「 …言っとくが 側にいるだけだからな 」
「 えーっ… もう少し臨機応変にお願いします」
「 年寄りは労れ と言ってるだろうが!」
引き寄せられるままにベッドに沈みながら 悔しいけれど思い知る。
もう今は お前なしじゃ いられないんだ…
Date 2007 ・ 08 ・08
inspired Bad Religion/the process of belief
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2001年のアルバムタイトル直訳すると「信念への過程」
信じるということは揺らぎや疑いの中で何に価値基準を求めるかということで、
森田にとって正義とか愛とかではなく平井銀二という存在そのものが信念で
あったなら別離はなかったのかなぁという目線で書いてみました。
…というのは半分ウソです。
久々 エロ書きたかっただけです。(爆) エロだけだとアレなんで、ちょっと
説教じみた事を付け加えました。スンマセン!