perfect drug <chapt4>
シャツの胸をはだけ舌でなぞる。皮膚の上を滑るねっとりとした刺激に震えながら平井の背が反りかえった。押しつけられられた胸をいいことに森田は僅かな突起に指を這わせ形を確かめながらゆっくりと撫で上げると
舌で絡め取り 吸い上げながら軽く歯を立てて上目遣いに様子をうかがう。
きつく閉じた目元は朱を叩いた色に染まり、唇の端からは擦り切れて悲鳴にも似た喘ぎが零れている。けれどそれが苦痛でない証拠に 背中に回った両腕は森田を捉えて放さない。
慌ただしくスラックスの前を寛げると下着ごと引き下ろし、いきなり外気に晒されて粟立つ肌を間近に見ながら足首を掴んで口づけた。
「…ん ぁあぁ…」
身を捩り呻く様に声を漏らす平井の足を弄び、指の間の柔らかな皮膚を舌で擽りながら空いている腕を内腿に伸ばす。
今日だけはどんなに身勝手な愛し方をしても拒否や叱責を受けぬことを知り、ふとどきにも一瞬森田は未知の薬に感謝する。
今までもそう接したくて けれど何処かで自分自身を押さえ、また平井に制されて叶わなかった思いが堰を切って溢れ出した。
足首、ふくらはぎ、内腿とゆっくりと体をずらしながら唇を這わせ、唾液を塗り込める様にして彼の肌を味わう。じっとりと汗に濡れた腰に腕を回し、体の線に沿って浮き上がるあばらの数を鼻先で数え 腋に強く頬を押しあてて大きく息を吸う。 酒やタバコではない 平井銀二の匂いが否応なしに欲を煽った。
肌を刺す様な執拗な愛撫に目の奥に火花が上がるのを感じて、平井の中の熱も一点に向かい集中し始めていた。申し訳程度に体に張り付いていたシャツを自分で払い落とし、シーツを握りしめ
足音を立てて近付いてくる悦楽に目をこらす。
口づけながらやんわりと握り込んだだけで痙攣の様な震えが止まらなくなった。空に向いて開いたままの唇から洩れる呼吸音はあまりにも早く、不安と自責の念に駆られた森田は一刻愛撫の手を休め彼の顔を覗き込む。
腕の下で必死に息を整え潤んだ瞳を返す平井が途切れ途切れに自分の名を呼んでいる。それは決して傷付けてはならない自分にとっての聖域。ただ理性と裏腹に
体は一つになりたくて離れることも出来ず、悩んだ挙げ句 森田は壊れ物に触れる様にそっと銀色の髪に腕を回し己の体を密着させて囁いた。
「銀さんごめん… やっぱ止めよう… 辛いんでしょ?」
灰色に滲む森田の声が頭の上で淀んでいる。
「…違う そうじゃない…」自分の声は掠れた活字になって体の上に纏わり付く。
光が溢れて見えるのは瞳孔が広がっているせい、感覚野の増大は脳の青斑核が活性化しているせい… 理性で分析して納得している自分とともに、理解不能な『色が聞こえ音が見える』自分がここにいる。
触れられるたび皮膚は溶け その指が皮膚の中にめり込んでくるのを感じる。押しつけられた熱の塊に脳は痺れ全身が波打ち揺れている。極端な皮膚感覚に戸惑いながらその甘美な罠に酔い、この男と何処まで堕ちて行けるものかを確かめてみたかった。
『アイシテイル』と囁く触覚に全身を包みこまれ 今は素の自分をさらけ出すことさえ恐くない。かってない程 目の前のこの男の愛が欲しい。
これまで 盲目的に自分への信頼と愛情を投げ出す男をコントロールし、老猾な自分の本性を悟られない為にそして欺かれない為に作り上げてきた砦は、愛され貪られたいと願う自分の本心の隠れ蓑に過ぎなかったことを思い知る。
「ならどうすればいい? 身を投げて 抱いてくださいと この男に請うのか?」
甘える子犬の様に平井に顔を寄せ目を閉じていた森田の頬を震える指が這い上がりゆっくりと包んだ。
ひんやりとした感覚が目蓋をなぞり額を撫で、鼻筋を通って唇にたどり着く。
「銀さん?」返した視線の先で、彼は言葉もなくただ静かに微笑んでいて、それを見るうちに 何故だか涙が零れてきた。白い手を握りしめ堪えきれずに口づける。
「銀さん… 俺 あんたが好きです。 どうしようもない程好き…
だから あんたを壊すみたいな真似できないよ…」
喉を反らせて声もなく平井が笑った。
「…馬鹿野郎 そんな簡単に 壊れてたまるか…」
「…銀さん…?」
「それとも …壊れるぐらい 喜ばしてくれるってのか…? お前が?」
ゆらりと身を起こした平井が背中越しに目を細めて森田を見やる。
自分の心配をよそに揶揄されて、腹立ち紛れに腕を引くと あっけない程簡単にその身は揺らいで胸の中に落ちてきた。その頼りなさに頭に上った血が一瞬で引き凍り付く。
「ご、ごめんなさい…」
恐縮し口ごもる森田の俯く気配を背に 幸せそうに平井が笑う。
肌越しに響く心音は微妙にずれながらもシンクロして心地いい。妙な色の光も音も必要なかった この体温が自分を包んでいてくれればそこが楽園だ。遠慮がちに回された腕に凭れて小さく呟く。
「お前は俺の翼…」
聞き返す森田には教えてやらなかったけれど。
「あの…」
居心地悪そうな森田に声をかけられ、うつらうつらしていた平井は視線を上げた。
「…銀さん 俺…」
何だ と聞く前に背中に押しつけられているものに気がついて、笑いながら体を離そうとしたとたん 強い力で引き戻される。
「なんだ お前…」
「だって俺… 今 すんげぇしたいの…! 銀さんと…!」
あまりの説得力の無さに叱るのを忘れた。
邪険に振り払おうとしたものの、甘える様に鼻をすり寄せてきた森田に羽交い締めにされ、いきなり後ろから両手で扱かれて逃げることも出来ず平井は身を強ばらせた。浮ついた幻覚は消えていたものの、敏感になっている皮膚感覚はやはりいつもと勝手が違い
疼く腰を押さえきれず なし崩しにその身を任せる。悲しい程に体は快楽に対して貪欲で、すぐに溢れてきたものを指先ですくわれ 掌で先の丸みにゆるゆると擦りつけられると知らぬ間に声が漏れていた。裏をなぞる指が上下するたび脊髄に電流が流れ思考は快感に向かって集中していく。程なくして充分に濡れた指が後孔に押し当てられると、
探る様に縁をなぞり ゆっくりと広げながら中に沈みこんできた。
「すごい柔らかいよ… ひくひくしてる…」
指を増やしながら囁く森田の息が耳朶に掛かるたび撥ねる体をとめられない。
細く長く息を吐きながら快感に酔いしれていると 急に体を持ち上げられた。されるが儘に膝立ちになり腰に回った手に導かれるまま真っ直ぐに腰を落とす。
「…くっ… ぁぁ…」
解されていたとはいえ宛われた物の質量は指の比ではなく、堪えきれず平井は下肢に力を込め侵入を拒もうとした。
「だめ 銀さん 力抜いて…」
声は優しいけれど両腕に込められた力は有無を言わせずそのまま彼を引きずり落とす。
ずん と何かが脳に刺さった。皮膚感覚に直結する意識が冷たい火花をまき散らす。無理な姿勢で挿入され、支えきれない体を背後の森田に預けたまま肩で息をする。
昂り今にも弾けそうな熱が体の中から自分を焼こうとしている。考えただけで自身も熱に濡れていくのがわかった。
腰にかけた腕で平井を引き寄せるのと同時に森田が動き始める。崩れそうな体を支えながらゆっくりと確かめる様に身を揺らし、浅い挿入でも吸い付く様な粘膜の反応に満足すると、徐々に体を倒しながら覆い被さり
突き上げる様に最奥へと欲を進める。
ずるりと襞が擦れ熱が前後するたびに捲れ上がる様な圧迫感が半身を支配した。けれど苦痛すらも今だけは本来の姿を失い、眩暈を伴った陶酔へと変換されて心を犯す。
とどめなく零れ落ちる甘い声。繋がっているというより熱く溶けて一つに混じり合っていく感覚。息が止まりそうな幸福感。もう他に誰もいらない。この一瞬が永遠に続くなら むしろ今ここで死んでも構わない。
貫かれ揺すり上げられながらそれでもなお更なる深みに彼を迎え入れようと、平井の白い背が森田の上に沈み込む。触れるたび小さく撥ねる体を逃すまいと絡めた腕に綴じ付けられて身をくねらせる姿は更に欲を煽る。後先も考えられず 森田は大きく開けた口で 彼の首に胸元に花びらを散らす様な紅い痕を幾つも残しながら、かじりつく様に口づけるを重ね
千々に乱れる目の前の彼の姿にに夢ごちた。
何度も何度も名前を呼びながら 押し寄せてくる熱に逆らいその手を握りしめた。
目元に涙を浮かべ細い声を漏らす平井の耳元に唇を寄せ囁きかける。
「…俺も限界です… 一緒に…」
スピードを上げ叩きつける様に体を動かす。追い込んでいるのか追い込まれているのか
今はそれすらわからない。己の熱を伝える事に熱中するあまり肩に食い込む爪の感覚すら甘く霞んで定かではなかった。
「 ……っう… っあ…!」
平井が言葉にならぬ叫びを上げて身を折った。
大きく撥ねた体を受け止めながら森田も放っていた。張りつめ硬直した体が力を失い崩れ落ちる。声も出ず、目を開けることも出来ず、ただ意識が遠退くのにその身を任せて…
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<<続>>
Date 2006 ・ 11 ・09