perfect drug       <chapt1>


     * はじめに *
    このSSは敬愛する森銀マスター むささび様の『夜に乗じて』という作品のその後 という形を取って書かれています。
    最大限のオマージュを持って書いてはおりますが、「状況が見えない!」という方は、先にそちらを読んで頂けると、
    よりわかりやすいかと思います。
    『夜に乗じて』はこれまた森銀素敵サイト「T−M×3」(管理人 まつり様)にアップされております。
    是非足を運んでくださいませ!  (我が儘をお許し下さった むささび様、まつり様 ありがとうございます!)

 
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 3,4時間で済む用事だと言い置いて平井は部屋に向かった。
都心のホテル。細かいことは聞かされていない。
「多分飲むことになるだろうから 帰りはお前が運転してくれ」と言って平井が残した笑みには何の影もなく、肯いた森田の肩を軽くぽんぽんと叩くその仕草にもいつもと何の変わりも感じられなかった。


 待つだけの仕事。時間つぶしに持参した経済誌もとっくに読み終わり、買い込んだ冷えたファーストフードも食べ尽くしてしまった。車外に出、意味もなく時計に目を走らせ、空になったボックスを握りつぶしながら 新しいタバコに火を付ける。「今日は長期戦かな?」もたれかかった車体の冷たさを背中で感じつつ森田は小さく溜息をついた。
 



 と その時  気配を感じて森田は目を上げた。
暗がりの中から影が一つ こちらに向かって近付いてくる。
聞き慣れた足音。待ち人であることを確信しながらも、どことなくいつもと違う歩調に ふと不安が頭をよぎった。
「銀さん?」
名前を呼びながら歩み寄る。
いつもならすぐに視線を返してくれるその人は、目を伏せたまま 足元を踏みしめるように のろのろと歩を進めている。
おかしい… 思ったとたん走り出していた。

 時刻はとうに日付を越え 薄ら寒い真夜中の空気が頬を撫で通り過ぎる。
「銀さん! 大丈夫?」
肩を掴み顔を覗き込むと 初めて気付いたという風に平井は目を上げた。
「… 森  田 …?」
眉根を寄せ 何かに耐えるようだった彼の表情がほんの一瞬明るく変わり、伸ばした指が森田の腕を掴むと ゆっくりとその額を森田の肩口に預ける。
「どうしたの?銀さん? !…奴に…伊沢に何かされた??」
目を閉じ浅く呼吸を繰り返す平井に返事はなく、唇を噛みしめた森田は引きずるように彼の体を車へと運び込んだ。




 後部シートに平井の体を横たえると、森田は細心の注意で車を発車させた。
ミラーに写る彼の様子は妙に静かで、それがかえって不安を煽る。
信号で足止めを喰らうたび 振り返って声をかける。目を閉じたままの平井は「心配するな」というように少しだけ持ち上げた右手を振ってみせるが、額に滲む汗と時折乱れる浅い呼吸に 森田の苛立ちは更に加速されていく。
たかだか四十分程の道程が やけに長く感じられた。






 車を降り 抱きかかえるように平井の体を支えてエレベーターに乗り込みながら、もはや自分一人では立っていられない彼の様子を窺う。
立ちのぼるのは整髪剤とタバコの香り。確かにアルコールの匂いもしてはいるが、酒に呑まれて正体を無くしているというのとは明らかに違う。少なくとも森田の知っている平井銀二は仕事の席でこんな酔い方をするはずがない。

「…すぐ医者を呼びますから。」
耳元で囁くと、しがみつくようにしていた平井が弱々しく首を横に振った。
「…いらねぇよ。 …時間が経てば抜ける…」
「抜けるって… それアルコールのせいだけじゃないでしょ? どっかおかしいよ。」
「…だから… ほっとけって… 今下手に動くと 俺がしょっ引かれる…」
意味が分からない という風の森田に平井は言葉を続ける。
「伊沢に 一服盛られた… …いや 合意の上だ 取り引きした…だから…」
「…!一服って 何? 何呑んだの!?」
「ふふ… わかんねぇ…  …でも大丈夫 毒じゃねぇことは確かだ…」
気丈な笑みは頬に張り付いて凍っている。霞が掛かったような目元には体を寄せている森田の姿が映っているかどうかも定かでない。
「…もう… もう…何でそんな無茶をするんですか!」
背中にまわした腕に思わず力が入った。コトっと喉を鳴らして平井が小さく息を吐く。
「…大丈夫 …時間が経てば 抜ける から…」
「もうっ…!」
最上階で止まったエレベーターから幾分乱暴に彼の体を降ろし、ポケットの鍵を片手に握り込む。左右を見回し人影のないことを確認してから、ぐにゃりと体重を預ける彼をそっと抱き上げて森田はドアに向かって歩き出した。


                                      <<続く>>
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                               Date 2006 ・ 10 ・31