make a wish  2

12時をまわっても平井は戻ってこなかった。
『足が必要なら連絡をください』とメールを打って森田は窓の外に 目をやった。
夜半から降り出した雨は勢いを増し、窓に映る景色を歪ませる。

知り合いの通夜だと そう聞いた。
焼香だけでなく、宵越しをする程の縁の深い人だったのかもしれない。
そうであれば こうして夜通し待っていても連絡の来るはずもなく、
でも戻ってくるのなら 真っ暗な部屋に帰るのはあまりに寂しいだろうと 彼を待つ理由を勝手に考えた。
意識を途切れさせないためにTVを付け、手持ちぶさたを紛らわすために ワインを開けた。


時間だけが過ぎていく。小一時間でボトルはあらかた空になっていた。


もしも… 
もしも今 あの人を亡くしてしまったら 自分はどうなってしまうんだろう…
アルコールに霞み始めた脳裏に暗い疑問が頭をもたげる。
もしも今 あの人に別離を告げられたら…
もしも今 あの人が自分ではなく他の誰かを選んだとしたら…


頭を振り 苦笑いで自答する。
『何を馬鹿な! …彼は恋人でも家族でもないのに…』
思わず口をついて出た言葉の裏に 自分で気付いて息を呑む。
胸をついて溢れ出す想いを飲み込むように、両手で口を被い膝をついた。
『銀さん…』胸につかえる熱い塊が針に変わる。
目頭がジンと熱くなるのに必死で堪え 窓の外に視線を飛ばした。


…側にいたい。側にいてほしい。 ずっと あなたを見つめていたい…


その想いに名前を付けることの出来ぬまま今日まで来ていた。
認めてしまうのは簡単なこと。でも違うと そうではないと
必死で打ち消していたのも事実だった。

何も出来ない自分を拾ってくれたのは 彼の気まぐれ
優しい言葉をかけてくれるのは 今の自分に利用価値があるから
それ以上のものは何もないのだと 何も期待してはいけないと
ずっと自分自身に言い聞かせてきた。

親子程に離れた年齢も 何より彼が同性であることも
その想いを自分自身に封印する大きな理由だった。


『でも… でも…』
何も伝えなかったが為に あの人を失ってしまう様なことになったら…

一人の部屋で頭を抱え 今はいないその人に向かiい
絞り出すような掠れる声で森田は呼びかける。
「…銀さん…  …それでも あなたが好きです… 銀さんっ…!」

激しい雨はまだ止まない。

                                     <<続く>>



                         Date 2006 ・ 07 ・ 21