キミノコエ

枕の上に広がる銀の髪を指でなぞりながら
オレンジ色の間接照明の中、ぼんやりと浮かぶ彼の横顔を見ていた。
眉根を寄せ、幾分苦しげに閉じた目蓋が時折ぴくりと痙攣する。
額にかかる髪を撫で上げると 夢の中の彼は子供のようにむずがって
胸元に頬を押し当ててきた。
目を細めそれを見ていた森田の口元にゆっくりと笑みが上る。
行為の後、ほとんどの場合 先に意識を失ってしまうのは森田の方で
目を覚ます頃にはもう平井は普段の彼に戻っていているから
こうして微睡む彼を胸の中に抱く至福はそうそう巡ってくるものではなく
静かな喜びの中、森田は飽きることなく腕の中の彼を見つめていた。


不意に彼の唇が短く動いた。


「…? 何…?」
聞き落としてしまった言葉が気になって耳をそばだてる。
「…何言ったの? 銀さん…」
うっすら微笑んでいるようにも見える彼は静かに胸を上下させるだけで
何も答えてはくれない。
何故だか急に寂しくなって 少し乱暴に抱きしめた。


呼吸の自由を奪われた彼は抗議するように 腕の下で体の向きを変え
鼻先で森田の腕を押し上げる。

「…お前 殺す気か…?」


寝起きの少し不機嫌そうな囁き声が背筋に甘くざわりと響く。
まだ重たい目蓋の下で薄い色の瞳が責めるように彼を見上げている。
滅相もない と森田は慌てて首を振った。
「ごめんなさい。 …銀さんが可愛かったから つい…」
「…可愛い 言うなっ…」
一瞬睨みつけた後、平井はぷいっと背を向けた。
「だって…」
追いすがるように後ろから抱きしめ、項に唇を寄せながら言葉を続けた。
「銀さん 夢の中で誰かの名前 呼んでたから 気になって…」
「…? …何だよそれ?」
「その後すごい幸せそうな顔してたから なんか嫌で…」


森田の言葉を呆れたように聞いていた平井がくつくつと笑い出した。
「酷いなぁ そんな笑わないでくださいよ…」
傷ついたと言わんばかりの森田の言葉を遮るように、
平井は急に体を半回転させて森田と向き合った。
いきなり至近距離で瞳を覗き込まれ、どぎまぎした森田は
耐えきれずに瞳をそらす。
耳朶に平井の息がかかり、心地よく響く低い声が耳に流れ込んでくる。


「…お前の夢を見てた。」
「…?!」
「…そういうことだ。わかったろ?」

それだけ言って平井は又あらぬ方を向いてしまった。
胸がチクチクして頭がぼっとした。目の前の背中が愛おしくて
ゆっくり胸元に腕をまわした。
「…俺のこと 呼んでたの? そうだったの?」
返事の代わりにまわした腕に唇が押し当てられた。
森田は大きく息をついて、もう少しだけ彼の体を近くに引き寄せた。


「…森田…」


柔らかな声が彼の名をまた呼ぶ。
はい と答えながら、彼は痺れるような幸福感に身を任せていた。

                                

                            Date 2006 ・ 07 ・ 12            


                        
 inspired  『キミノコエ』 中村一義
                        ****************************