The Last Firstborn    












 
 
     「    お前の取り分だ   持っていけ … 」


     無造作に机上に積み上げられた札束をグイっとこちらに押しやって 銀さんが笑う。



     「 コングラチュレーション。 … 約束通り一人でやり遂げたな。 たいしたもんだ。」

     揶揄も何もなく 彼に褒められると 何だか自分のレベルが格段に上がったような気がして
     俺の頬には自然と笑みが上ってきた。










     今回のヤマは確かにきつかった。
     今まで培ってきた人脈をフルに使ったのは勿論だが、反面 情報に振り回され文字通り日本中を
     飛び回わる羽目にもなった。
     まともに眠れたのは移動の間だけという3週間はいかに若い身とはいえ限界ギリギリのものが
     あったけれど、銀さんが欲しがっていた北海資源開発絡みの裏金ルートと、その橋渡しをしている
     政治家の足元に群がる子悪党達のスネの傷は余さず調べ上げてきた。









      仕事に入る前 銀さんは俺に言った。

     「 今回のターゲットは小物ばかりだが数が多い。
       付和雷同する連中の目先にエサをぶら下げて一気にこちら側に引きずり込む。
       つまり時間と勢いの勝負だ。甘い汁を狙ってる奴らは五万といるし、どうせ悪党ばかりだ 
       弱いところは徹底的に叩いてかまわん。
       … だから、 一ヶ月で何とかしろ。   それがタイムリミットだ。 」


     報酬として提示された金額も魅力的だったが それにもまして俺の気持ちを動かしたのは、
     最後に銀さんが付け加えた一言だった。



     「 …そうだな もし期限内にお前一人で完璧に調べ上げることが出来たら 今提示した報酬
       にプラスで 俺が特別ボーナスを出してやろう。    

                    … 何でもいい お前の欲しい物をな…。 」








       ***********








     仕事を終え、ボイスレコーダーとコピーの束を抱えヘロヘロになりながら部屋に戻ってきた俺を
     見て 銀さんは『 お前随分 いい顔になったな 』と笑った。
     『 銀さんのおかげですよ 』と返したら 彼はちょっとくすぐったそうな顔をして 照れ隠しの様に
     俺の頭をぽんぽんと叩いて奥の部屋に消えていった。 









     俺の帰りを待ち受けて 銀さん達はいつものように後始末をしてくれたようだ。
     料亭での密談、懐柔、 そして少々強引な情報操作…
     疲労困憊した俺が寝惚けていた僅かな間に、俺達は他に出し抜かれることもなく
     新たな錬金組織を手中に収めていた。
   











       
***********








     「 ご苦労だったな 」
     目を細め グラスにシャンパンを注ぐ銀さんはかなり上機嫌そうに見えた。
     思えばまともに顔を合わせ酒を飲むのも一ヶ月ぶりで もうそれだけで妙にテンションが
     上がってしまう自分がおかしかった。
     金の泡の向こうで微笑んでいるその人は そんな気持ちを知ってか知らずか 少し小首を
     傾げ じっとこちらを見つめている。
     もっと側にいたいと思った。 もっと近くにいたいと思った。
     認められたいという気持ち以上の何かが胸で疼いていた。


     勧められるままに重ねたグラスを見つめていると   急に彼が切り出した。

     「    で、考えたか?  ボーナス。   
                               …何が欲しい? 」



     目の前の銀さんは優しげで綺麗で
     俺はイイ感じに酔っぱらっていて
     部屋は暖かで心地よかった。


     窓の外には ナイフのような下弦の月が浮かんでいて
     それは微笑んだ時の銀さんの目元にも似ていて
     思わず口から 言葉が漏れた









     「     俺は…   銀さん   
                           … あんたが   欲しい…      」










        ***********









      銀さんの眉がほんの少しだけ動いた気がした。
      けれど頬に張り付いた薄い笑いはそのままで、眼差しの底には何の感情も見て取れなかった。

    
     「    おもしれぇ事を言う奴だな…   俺の何が欲しいんだ?
       金か? 人脈か? 脳味噌か? 」




     分かっているくせに 人を焦らして楽しむのはあんたの悪い癖だ。
     言葉に出来ず じりじりしている俺を嘲笑うように ゆらりと立ち上がった彼は 視線で俺を
     捉えたまま おもむろに  白い指を胸元に這わせる。

     「    それとも…  お前が欲しいのは  …この体か? 」 

   


     唇の端が捲れ上がり、衣擦れの音と共にボタンは一つ外されて シルクのシャツはたらりと
     波を打つ。


     「 感心しねぇなぁ…   お前言ってたじゃないか 『いい女一人抱いてねぇ』って
       それが  女飛び越えて  俺だ?   …違うだろ?  よく考えてみろ… 」


     三つ目のボタンが外れ ふわりと開いたシャツの影から薄色の尖りが覗き
     俺は思わず目をそらした。








     「 ほら見ろ…   生身のおっさんの体なんか見た日には萎えちまうんだろ?
            何夢見てるんだか知らねぇが  ノンケのくせして男抱きたいなんて 
       簡単に言うんじゃねぇよ。   馬鹿野郎… 」


     頭の上から降りかかる声に顔を上げると はだけたシャツを大きく広げ 肩も露わにした彼が
     哀れむような笑みを浮かべ  目の前に立ちはだかっていた。








     「 違う…    そうじゃない…! 」

     「      もう一回だけ聞いてやる。 ちゃんと答えろ。
       何が欲しい?  お前が今 一番欲しいのは   何だ…? 」








     さぁ言え と、その目が誘っている。酒のせいだけでなく朱を帯びたその肌はいつにも増して
     蠱惑的で、ゆらりと頭を揺らすたびに放たれるその熱と色香に脳が痺れる。



     「 … だから 言ってんだろ…!  俺が欲しいのは  あんただって…!」


     心臓だけでなく全身が脈打っている。
     こめかみの血管が膨れあがって血が沸き立ち指先の震えが止まらない。
     目の前のその裸身に 完全に俺は欲情していた。





     もう堪えられなかった。 
     真っ直ぐに腕を伸ばしベルトを掴んでその腰を引き寄せる。
     彼が ぐらりと体勢を崩した隙に乗じてベルトを緩め 力任せに下着ごとスラックスを膝の
     辺りまで引きずり下ろした。




     「 馬鹿野郎… 何血迷ってやがる… 」
     無防備な下半身を俺の目の前に晒しながら 彼の口調はぞっとする程静かで 何にも臆さない
     その余裕に無性に腹が立った。
     この展開も彼にとっては計算通りということなのか? 上目遣いに睨みつけると 薄笑いのまま
     彼は俺の髪を掴み 自分の下腹部に俺の顔を押し付けた。


     「 ほらよく見ろよ… お前と同じモノが付いてんだろ…。  これでも抱けるってのか? 
       嗅いでみろ  お前と同じ匂いがするだろ。  それでもお前は勃つのかよ 
       この変態野郎が… 」












   
     「     ちきしょう…  言わせておけば好き勝手言いやがって… 」

     言われるまでもなく 俺は勃っていた。 たまらなく目の前のこの人の体が欲しかった。
     擦りつけられたそれに手を伸ばし指を絡めて握りこみ ぬるりとすべる先端を指の腹で
     撫で上げた。

  
     「 くっそ… ふざけんなよな…    あんただってしてぇんだろ…?   
              俺みたいなガキ相手に    こんなにおっ勃てちまいやがって… 

                    あんたこそ変態野郎じゃねぇかよ…!」
  



     「  クックック…     何だよ   てめぇ 本気なのか…? 」

     俺の髪をかき混ぜながら 潤んだ瞳で銀さんが笑う。













     「  しょうがねぇな…     ならば この体   お前にくれてやる。

       お前にそれだけの覚悟があるならな 」


     「 ああ…     あんたとなら  どこまでだって堕ちてやるよ… 」


     吐き捨てるように言った俺の顎に指をかけ引き上げた彼は すぅっと身を沈めると俺の
     鼻先に顔を寄せ、射抜くような目をしたまま嬉しそうに呟いた。







     「 馬鹿野郎  堕ちるんじゃねぇ  


                   … 俺達は跳ぶんだ。   一番高い所まで  な … 」








     
頬をなぞる白い指の優しさに 俺はただ頷いた。
     この人なら俺をその高みにまで連れて行ってくれると心底思った。
     悪魔のように微笑んだその人は ゆっくりと俺を引き寄せ 『 好きにしていいぜ… 』 と
     耳朶で囁くと 喉を鳴らして笑った。


   


    


























                                                       Date 2008/ 05/07-12 


                                              inspired   Celldweller / The Last Firstborn
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                                銀さんを欲しいと思ったのは自分の意志だと森田は信じているけれど
                                  ひょっとするとそれは銀さんの張り巡らせた罠だったのではないか
                                    相思相愛と思いこんでいても実は心理操作だったのではないか
                              実は森田のことが欲しくてたまらなかったのは銀さんだったのではないか

                                           この曲の歌詞から そんなことを想像しましたです。
                                     Celldwellerいいっすよ〜。インダストリアル系お好きなら是非!









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