錬金術師ゲンドウ


 第5話「クリスマスのまぼろし」



 アスカは日本の中学校が好きになった。ダサイ制服もおもしろかったし、担
任の年寄りの先生の独特のものの言い方も気に入った。あの世界に名だたる、
シュールな『コーソク』は夢中になった。アスカは全校でいちばん校則を喜ん
で守る女生徒かもしれなかった。

 彼女は「廊下を歩くときは右側を歩き、左前50センチの床を見ながら歩く
こと」という面白い校則を忠実に守りながら歩いていて、クラスメートの鈴原
トウジという、関西弁でしゃべる男の子とぶつかりそうになった。もちろん相
手が校則違反をしていたので、怒鳴りつけて、いや、「校内では不必要に大声
をあげてはいけない」という校則を守って、小声で「どこ見てあるいてんのよ、
このすっとこどっこい」と、ささやくように言ってやった。

 友達はすぐ出来た。もちろん男子の人気者になった。でも女子にも、ものす
ごく人気があった。なにせ彼女は、女の子であれば一度はあこがれる職業ナン
バー3の『魔女』なのだ。2年前はいたそうだけど、今は卒業してこの学校に
魔女がいないせいもあった。だから、休み時間になるとアスカを中心にした人
の輪ができる。
 一番仲良くなったのは、洞木ヒカリというそばかすのある、やせた女の子だ
った。
「ねえ、あなた、魔女なんでしょ?…わたし、『シャーマン』なのよ」
ある日、ヒカリの方から、そう話しかけてきたのだった。アスカはもちろん
魔法史をヨーロッパ地域の魔法アカデミーで学んでいたから、その意味は知っ
ていた。
 シャーマン、神のご神託を受ける者。19世紀末の『来訪』以降、魔法学が、
整備され、体系化され、「科学」の地位を脅かしかねないほどの興隆を極めた
時でさえ、片隅に追いやられていた「魔法使い」の亜種。特に日本においては
明治維新以後、国策による西洋の魔法体系の導入によって、祈祷師、陰陽師な
どとともに絶滅の危機に瀕した、古い、古い、おそらく日本という国より古い
職業。
「へー、なんで今頃、シャーマンなんかに…。あ、ごめん」アスカは初対面の
シャーマンという仲間にうっかりそんな言葉を使ってしまって、あわてた。
「いいのよ、気にしなくて。あのね、ウチは神社なのよ。でね、女の子が出来
たら、かならずシャーマンになるしきたりなの。でも出来ることといったら、
『ふとまに』だけなのよ」
「なに…?その『ふとまに』って」さすがのアスカもそんな古い言葉は知らな
かった。
「『ふとまに』ってのはねえ…」ヒカリは顔を輝かせてしゃべり出す。
こうしてアスカとヒカリは大の仲良しになった。

 アスカとシンジが同じ屋根の下に住んでいるということが知れ渡るのには、
あんがい時間がかかった。どちらも嘘をついていたわけではない。だれも「高
台にある錬金術師の家」なんて街に一軒しかない、という事に気がつかなかっ
たのだ。
 それと、碇シンジがあまりにもアスカと対照的な少年だったせいもある。
シンジは、勉強は中の下、運動はまるでだめ、身長はクラスで3番目に低く、
無口で引っ込み思案の男の子だった。

「お前が、なー、あの女と同じ屋根のしたにおるなんてなあ」トウジが言う。
「な、なんだよ」
「『もったいないお化け』がでるぞ、なんて言われとるぞ」
「どういう意味だよ?」
「まんまの意味や。自分で考え。ワイはあの女すかんけど」

 シンジはわからなかった。で、眼鏡をかけた兵器オタクの、相田ケンスケと
いうクラスメートに聞いてみた。
「いいにくいけどな、碇くん。だから君とあの子が同じ屋根の下にいてもしょ
うがないってことさ」
「なにがしょうがないんだよ?」
「…だから、さ。男の子と、あんなかわいい女の子が同じ家にすむだろ、そし
たら、ふつう、なにか起きたってへんじゃないだろ?…少女マンガみたいに」
「…う、うん」シンジは、不意に頭の中に浮かんで来たアスカの白い丸いおし
りを、頭から追い払っている。
「で、碇くんだったら、あの子は鼻もひっかけないから、なにも起きない、と
…いうわけ」
 そうだったのか。シンジは了解した。何事につけ、トロいこの少年は、いつ
もこうだった。

 アスカは、その高台の家に帰る。
 玄関の戸を開けると、つんとした化学薬品の匂いがする。一月も立つと、そ
れにも慣れた。おばさまは、とてもよくしてくれる。アスカは思う。おばさま
が作ってくれる料理も気に入った。『シゲル君』も相棒のモン吉もいる。
あの得体のしれないオヤジと、ネクラの息子以外は、この家が気に入ったわ、
アスカは思った。

 電話を付けた。自分の部屋に。洞木ヒカリや、他の女の子と夜遅くまで電話
したり、うんざりするほどかかってくる男の子からのデートの誘いを断るため
に、である。…他に電話回線の用途があるだろうか?
 アスカはいつも夜11時ごろからベッドに入り、親子電話の子機を手に持っ
て、出来たばかりの友達と、とりとめもない話をするのだった。
アスカとシンジの部屋は、狭い踊り場を隔てて真向かいにある。薄っぺらド
ア二枚を通して、いやでも声や物音が筒抜けだったりする。シンジは、勉強机
で頬杖をつき、何をするでもなく、ぼんやりとアスカの声を聞いていた。不思
議な気持ちがした。ドアの向こうに、同い年の女の子がいるのだった。

 机の上には徳用のインスタントコーヒーの大きさほどのガラス瓶が置いてあ
り、その中に、錬金術師の父ゲンドウが生み出した、レイという名の小さなホ
ムンクルスがいる。その妖精は赤いつぶらな瞳をぱちぱちさせながら、そんな
シンジの気を引こうと懸命になっていた。
「…ごめんよ、レイ、今日はそんなきぶんじゃないんだ」
 シンジはレイが言葉あそびをしたがっているのを知っていた。それは子供用
の「あいうえお」にちなんだ絵の描いてあるカードで、一緒に言葉を覚えるあ
そびだった。
 レイは、シンジの表情で、断られたことがわかると、すねたように培養液の
中でくるくると回った。…さいきん、シンジはあそんでくれない。きっとあの
女の子にかんけいあるんだわ。レイは思う。けれど、身長15センチの、瓶か
ら出られないホムンクルスに何ができるというのだろうか?

 明かりが消えた。シンジは、アスカの話し声がやむと、部屋の電気を消した。
「…おやすみ、レイ」シンジは瓶に人差し指をつける。レイはわざとそっぽを
向いた。気をひくためだった。
 けれど、期待に反してシンジはベッドにもぐりこんでしまった。レイはあわ
ててガラス瓶の内側をたたく。しかし、シンジはそれに気づかずに天井を見て
いた。ごめんなさい。ごめんなさい。けれどもその声無き声は届くはずもない。

 幸いなことに、その夜は満月だった。レイはカーテンの開いた窓から、月の
光が差し込むのを待った。奇跡が起きるのを待った。

 アスカは、気がつくとヨーロッパ地域の魔法アカデミーにいた。心のすみで
これは、「あの夢」だとわかっている。しかしキャンパスを歩く彼女よりずっ
と年上の若者たちが投げかける嫉妬と羨望と憎しみのまなざしは、まるで現実
のようだった。
 まけるもんか。夢だとわかっていても、アスカは彼らをにらみ返した。
 そのとき夢の中のアカデミーの風景は、突然灰色になった。…また、奴がく
るんだわ。アスカは思った。
 ぷしゅーっ。ぷしゅ。ぷしゅ。
 やつの立てる音が近づいてくる。しゅっ。しゅっ。ぽ、ぽぽぽ。ぽ。
 そいつは、白い湯気を吹き出しながら、灰色になった菩提樹の後ろから現れ
た。真鍮色のぴかぴか光る身体。まるで一枚一枚が包丁の先のような、銀色の
ぎざぎざの歯。バケツのようなでかい顎。『蒸気人間』だ。アスカはうめき声
を上げた。

 アスカのベッドの隣に置かれているベビーベッドに寝ていたモン吉はとび起
きた。この娘の身になにか起きたのではないか、と思ったのだ。そして。
 …かわいそうに。また、うなされておるわい。と思った。
 そのとき彼は、不思議な気配を感じた。何か、人間でないもの、普通でない
ものが、この家の中にいる。けものではない。それよりもっと得体の知れない
なにか。
 それは向かいの部屋から感じるのだった。あのさえない男の子の部屋からだ。
 アスカのことは心配だったが、相手が悪夢では、サルでも、たとえ人間でも、
さしあたってどうすることも出来ない。
 モン吉は音もなくベビーベッドから飛び降りると、向かいの部屋の前まで、
忍び足で行った。ドアをそっと開けてみる。

 開け放たれたカーテンから、街灯のような明るい月の光が部屋の中にさしこ
んでいた。部屋の隅のベッドには少年が寝ている。モン吉は思わず目を凝らし
た。何か白く透き通ったものが、その少年の上にいるのだった。
 モン吉はそれが人間の形をしているのに気がついた。思わず近寄ってみる。
 その人型のものは、少年のわきにちょこんと座り、少年の髪を撫でているよ
うだった。

 モン吉は思いきって近づいて見ることにした。それはどうやら、人間の女の
子の形をしている。青い鬼火ような、短い髪まで生えているように見える。モ
ン吉はさらに近づく。赤い目だ。まるで、ウサギのようだ。…この子も、かな
しそうな目をしている、モン吉はそう思った。
 それは、自分のすぐしたにいるサルに気がついて、頭をなでようとした。モ
ン吉はじっとしている。ところが、その白い手はモン吉の灰色の頭をずぶずぶ
と突き抜けた。
 …生ある現実のものとは違うものなのだ、モン吉は思う。この子は、どこが
いいのか、この少年に恋しておるようだが、決して、お互い触れあうことは出
来ないのだ。
 モン吉はその子の顔を見上げた。いまやその子がほほえんでいるような気が
する。…うむ?こやつ、もしかして。モン吉は、走っていって、勉強机に飛び
乗り、小さなホムンクルスの顔をのぞきこんでみた。瓶の中の小さな生き物の
目はそっと閉じられている。
 同じ顔。そうか。ホムンクルスは少年を恋するあまり、アストラル体となっ
て現れているのだ。
 モン吉は机から飛び降りた。モン吉の心にはある感情が生まれていた。サル
の心理描写は難しい。それは、人間でいうと「同情」のような、「共感」のよ
うな感情だった。傷ついた同じサルの仲間に感じるものと近いのかもしれない。
 …おまえさんもワシと同じなのだな。モン吉は思った。サルである自分とそ
のホムンクルスのアストラル体と何がどう同じなのか、彼には説明できないだ
ろうけど、とにかく、そう思ったのだった。

 いっぽう、そんな思いをよそに、碇シンジは、とびきりエッチな夢を見てい
た。なぜか一定の周期で見ているような気がする夢だった。
 いままでは、おもにレイが突然大きくなってベッドに入って来る夢だった。
(ある意味ではそれは間違いではない)。で、アスカが来てからは、アスカの
部屋に忍び込んで行くシーンも紛れこんできた。十四歳の男の子なんて、こん
なもんである。

 アスカは彼女自身の悪夢の中にあった。
「蒸気人間」は、額に付いているスピーカーから怒鳴っている。
「<ぴぎゃーーーー。ぎゃぴぎゃぴ>あー、あー、本日は晴天ナリ。<ぴぎゃ
ー>ただいまよりわが輩が食事をトル。学生諸君は<ぴぎゃ>整列スルヨウニ」
 キャンパスにいた意地悪な年上の同級生たちはみな整列する。
 そして、「蒸気人間」はその生徒たちを順番に食べ始める。
 その様子はこうだ。「蒸気人間」は金属製の熊手のようなもので、生徒をひ
っつかむ。生徒の身体はじゅっと音を立てると、みるみるすぼんで、枯れ木に
なってしまう。「蒸気人間」はそれをしゅぽしゅぽと湯気を上げながら背中に
あるかまどの中に放り込むのだ。かまどの中には消えることのない炎が燃えさ
かって、枯れ木になった学生たちはぱちぱちと音を立てて燃え上がる。
生徒たちはどんどん食われて、とうとうアスカの番になる。いつも同じだっ
た。夢は次のシーンで終わるのだ。
「蒸気人間」は、アスカの前に立つと、ぷしゅー、とげっぷのような大量の
蒸気を吐き出す。そして彼女の手をそっと取りアスカの身体をなめ回すように
見て、「<ぴぎ>お前はまだ子供だ。18になったラ、ワタしの燃料に<ぎゃ
ぴ>なるノだ」と言うのだった。
 あたしは14歳だ、まだ大丈夫。でも大きくなったらこいつに食われるのだ、
アスカは思った。それは逃れられない運命なのだ。夢の中でアスカは絶望とも
諦観ともいえない不思議な気持ちになるのだった。
 いつもそこで夢から醒める。
 この夢のなにより恐いのは、自分が恐怖を感じていないということだ、アス
カは額の汗をパジャマで拭きながら思う。わたしは、日本にいる。まだ14だ。
明日は中学校に行くのだ。だいじょうぶ。アスカは自分に言い聞かせた。そし
て再び眠りに落ちた。

「あら、シンジ、どうしたの?」ユイは、朝っぱらから風呂場の方で物音がす
るのに、行ってみて、息子のシンジが洗濯機の前にいるのを見つけた。
「え、いや、…あの。せ洗濯物たまってたから」そういって息子は行ってしま
った。
 ユイは不審に思って、洗濯機の中をのぞき込む。彼のシーツとパジャマがく
るくると回っている。
 そのことを夫のゲンドウに話すと、この屈折した中年の錬金術師は、そら、
赤飯でも炊くか?…ニヤリ。…などと楽しそうに笑うのだった。
 …あたし、このひとと結婚してよかったのかしら?…とユイは思った。

「ねえ、アスカ」ある日の放課後、ふたりでたこ焼きを頬張っているときに、
 クラスメートで親友の洞木ヒカリは言った。
「ひゃあに?はふはふ」アスカは答えた。
「あのね、埋め立て地のさ、おととし出来たショッピングモールにさ、今年す
っごく大きなクリスマスツリーが飾られるんですって」
「ふーん」アスカは暖かい十六茶をずずずと啜りながら言う。
「でさ、見に行かない?電車で行けば20分くらいよ」
「あ、いいわよ。いつ行く」
「…やっぱりイブがいいな。空いてる?」
「あーっと。なんかつまんなさそうなパーティに誘われてるけど、返事してな
いし、いいわよ」
「よかった…。あの、それで、さ。男子、誘っても…いい?」
「えー」アスカは露骨にいやな顔をする。
「…だめ?」
「…鈴原でしょ?」
「あ、…うん」ヒカリはうなずいた。…ったく、なんであんなのがいいんだか、
見当もつかないのだった。でも口には出すまいと思った。
「…あいつ、どこがいいの」でも聞いてしまった。
「や、やさしいとこかな。…そんなこといいじゃない、…だめ?」
「えー、えー、えー、で、引き立て役になれってわけぇ?」
「ちがうわよ」そんなこと、とんでもない、と洞木ヒカリは思った。アスカを
引き立て役にできる女の子がこの世にそんなにいるとさえ思えなかった。そり
ゃ、自分だって、十人並みよりは、ちょっとかわいいと思ってる、でもアスカ
にはとうていかなわない。でも鈴原くんはだいじょうぶ。うん。ヒカリはささ
やかなたくらみを抱いているのだった。
「…で、女子二人男子一人?」アスカは言う。
「…碇くん、はどう?」
「やだー、いつも顔あわしてるのと、なんでツリー見に行かなきゃならないの
よぉ」
 アスカはだんだん不機嫌になってくる。
「じゃ、相田は?」ヒカリはあわてて言った。
「あいだ?…あいだねえ」アスカはクラスメートで、しかも彼女のすぐ斜め後
に座っている男子の名前と顔が一致しない。ヒカリから、こんな子よ、と言わ
れて、メガネとくせ毛だけ思い出す始末。
 でも思い出せないというのは「害がない」という証拠でもある。アスカはし
ぶしぶ承知した。
 そうよ、これは親友のヒカリのために行くんだわ、と思うことにした。

 クリスマスは、誰の身にもやってくる。そう、すっかり冬めいた庭の真ん中
につったている『シゲル君』にも、サルのモン吉にも。
 そして屈折した錬金術師にも。
「あんな、我々を抑圧した宗教の教祖の誕生日なんかよく祝う気になるな」ゲ
ンドウは魔女でもある妻に話しかけた。
「違うわ、あなた。キリスト教による中世の暗黒時代があったからこそ魔術は
発展したという魔法学者もいるわよ」
「ふうん」ゲンドウは、妻に背を向けてコーヒーを飲む。すこし、すねていた。

「なあ、何時にどの駅やったっけ?」突然、シンジは鈴原トウジにこう話しか
けられた。
 ぼんやりと窓の外を見ながら、薄暗い彼の部屋で退屈な一日を過ごしている
はずのホムンクルスのレイのことを考えていたシンジは、は?と返事した。
「は、やないわい。何時やねん?」
「は?」
「せやから、は、やないって。何時やときいとんねん」
「鈴原」
 突然、洞木ヒカリがどこからともなくやってきて、鈴原トウジの制服の袖を
ひっぱってゆく。
「碇くんは誘ってないのよ」ヒカリは小声で言う。
「あ、そうか…でも、なんでやねん?」トウジは言う。
「いえ、…あの、そのアスカが」ヒカリはそう言いかけて、こうなったときの
いいわけを考えていないことに気がついた。
「あの、ね。…あ、アスカは、相田くんとゆっくりお話したいから、その、…
わかるでしょ?」
 鈴原トウジは不思議そうな顔をして、
「…そんならワイらは添えモンか?…んでも、あの女ケンスケに、ほれとると
わなあ」
「そんなんじゃないわよ、興味があるってだけ」ヒカリに教えられるまで2ヶ
月も同じクラスにいて気づかなかったけど、とにかく誰だかは知りたがったわ、
ヒカリは思う。『興味がある』と言ってもあながち間違いではない。

 シンジはそんなふたりをぼんやりと眺めていた。心の中はべつの想いでしめ
られていた。


 これって、Wデートって言うんだろうか?
 相田ケンスケはそう思った。Wデート。Wデート。デート。心の中ではいつ
の間にかWがどっかに行ってしまっていた。委員長とトウジたちは、なぜかア
スカとケンスケを振り払うようにしてさっさと歩いていくのだ。
ケンスケは、数え切れないほど、自分の隣を歩いているアスカの横顔を盗み
見た。何度見ても同じだ。アスカはものすごく可愛い女の子だった。彼女は黒
ずくめだった。黒いショートブーツ、黒いタイツ、黒のミニスカート、黒のコ
ート、黒の毛糸の手袋。亜麻色の髪に、真っ赤なリボンをつけている。とても
目立った。大勢の男の子が振り返った。ケンスケはそんな男たちと目が合う度
に何とも言えない気持ちになるのだった。

 夕暮れにはだいぶ早いのに、薄暗い午後だった。雪が降りそうな空だった。
「ゆ、雪がふりそうだね」ケンスケはアスカに話しかけた。
「そうね(ズズズズ)」そっけなく彼女が答える。そうだ。並んで歩いていて
もアスカはぼくのカノジョじゃない。ケンスケは思う。でもなにかの間違いで
カノジョになってくれたら、どんなにいいだろう!?…相手は学校で一番頭が
良くて、一番可愛くて、おまけに魔女なのだ!
 たとえ、この世の終わりがきたってそんなことはありそうにない。

 二組の少年と少女は、大きなショッピングモールの中庭に出た。途方もなく
大きなクリスマスツリーがあった。灰色の天に向かってそびえ立っていた。何
組ものカップルが腕を組んだり肩を抱いたり、腰に手を回したりして、それを
見ていた。
 ツリーの近くに、ステージがあり、オルガンが置かれている。トウジはその
ステージに歩いてゆき、脇の掲示板を読んだ。
「なになに…4時に聖歌隊の合唱やて」彼は言った。
「…素敵じゃない。聞いて帰らない?」ヒカリは彼の背中に声をかけた。
「あと30分もあるんやど、それまでこのくそ寒い中まつんか?」
「待ちましょうよ。いいじゃない。ね。アスカ?」
「…うん?…いいわよ、でも寒いわね(ズズズ)」そう言うアスカの鼻と耳は
真っ赤だった。ケンスケはそれさえかわいいと思った。
「…そうだ、途中にゲーセンあったじゃないか、ちょっと時間つぶしたら?」
ケンスケは言った。
「それ、いいわね、そうしましょ」アスカは言った。ケンスケはなぜかうれし
かった。

 4人はゲームセンターの中に入った。アスカはめざとく広い店内の隅っこに
占いコーナーがあるのを見つけた。椅子が一つ。小さなカウンターの向こうに
年を取った魔女が、おきまりの水晶玉を前に座っている。こんなゲーセンにい
るような魔女は、たいてい引退した下級魔女か、年を取ってから魔女であるこ
とが判明したせいで、昇級のチャンスを断たれた魔女なのだ。
「あれやりましょうよ(ズズ)」アスカは言った。
「せやけど、おまえ魔女やろが」トウジが言う。
「ばーか。(ズズズ)あたしは天才だけど『占い』だけは出来ないのよ」
 そんなことはない、ヒカリは思った。ちょっとした修行をすれば、アスカは
恐るべき大占い師になるだろう。しかし興味が無いだけなのだ。占いを専門と
する「魔法使い」の亜種である「シャーマン」のヒカリは思った。魔女の仲間
意識は強く、見知らぬものでも助け合うということを聞いた事がある。アスカ
もそう思ったんだわ。
「こんにちは」アスカは声をかける。年取った魔女は顔をあげ、そして立ち上
がり、深々と礼をした。
「…ありがとうよ。お嬢さん。あんたはだいぶ位の高い人のようだね?」アス
カは驚いた。一瞬で見抜くなんて。初級にもこんな人がいるのか。
「そうね。でも占いは出来ないわ。お願いします」
 魔女はほほえんで、座った。
「で、だれから占おうか?」
「…ほな、おまえからいけ」トウジはケンスケの背中を押す。ケンスケはしか
たなく魔女の向かいに座った。
「何を占おうか?恋愛、勉強、将来の職業、なんでもいいよ」
『恋愛』。恋愛恋愛恋愛恋愛。ケンスケの頭の中で、彼の隣を歩くアスカの
ほっそりとした姿がぐるぐるとまわっている。
「…あの。えと…。あ…あの、『イージス鑑』のいいモデル手に入るでしょう
か?」
「へ?」
「いえ、だから、その船なんですけど、軍艦のプラモデルなんですけど。なか
なかいいのがなくて」
「…ふうん。女の子には興味がないのかねえ」と、目の前の魔女はケンスケの
背後をちらりと見た。そうだ。ぼくの後ろに立っているアスカを見ているんだ、
ケンスケは思った。そんなもん本人の前で聞けるわけないじゃないか!
 魔女は水晶玉に手をかざし、ゆっくりと動かす。
「…ま、来年だね。手に入れるんじゃないかな」年老いた魔女は投げやりに言
う。ケンスケはなぜか恥ずかしくなり、友達のトウジの後ろに回って、彼の背
中を押した。
「つぎトウジやれよ!おばさん、このひとの恋愛、恋愛」
「な、なにさらすねん。…おばちゃんかめへんで!…ワイは。質問はこうや。
…阪神、来年優勝するか?」
「せーへん。するわけあれへんやろが」魔女はきれいな関西弁で言う。
「…ふん!そんなんワイもわかっとるわ」トウジは後ろに下がる。
「あ、あたし先でもいい?」ヒカリは、アスカにそういうと、恥ずかしげに椅
子に腰掛ける。
「ふう。恋うらないじゃないとね…。そうなんだろ」年老いた魔女は優しそう
に目を細めて言った。アスカはそんな仲間の姿を見ながら、ああ、こんな魔女
の生き方もいいな、と思った。
「…はい」ヒカリは頷く。彼女の後ろでケンスケはトウジの脇腹を肘でつっつ
く。なんすんねん、このがき、とトウジはケンスケにヘッドロックをかける。
「ボーヤたち、静かにせんか」魔女は言う。
「あんたも、少し『読める』ね?」老女は言った。『シャーマン』としてのヒ
カリの能力のことを言っているのだ。
「はい。…わかりますか」
「『読んだ』んだね…?あいつを」そういうと、格闘ゲームマシンの前でボク
シングの真似をして遊んでいる、トウジの方をちらりと見た。
「…はい」
「どう『読め』た?」魔女は訊ねた。
「…ほ、ほんとは、とてもやさしいひと。で。…あの、…わたしの事が気にな
ってるけど、言い出せないひと…って」実はそれだけではなく、なんと赤ん坊
をあやしている、青年になった鈴原の姿すら浮かんできたのだが、さすがにそ
れは言えなかった。
「…あたしもそう読めたよ。自分を信じていいよ」
「…ありがとう!」ヒカリの顔がぱっと輝く。そしてお金を払いお辞儀をして
アスカと交代する。
「わたしごときに占ってもらう必要はないんじゃないかい?」
「とんでもない!あなたはすばらしい魔女だわ」アスカは言った。
「ありがとう、あんたみたいな位の人に言ってもらえてうれしいよ。…上級で
しょう?」
「ええ」
「すごいねえ。すごい。わたしもあなたぐらいの年に目覚めてればねえ」
アスカは黙っていた。年上で格下の者ばかりとつきあってきたアスカは、経
験から、何も言わない方がいいと思った。
「で、恋愛のことだね?」
「うーん」アスカは、いまの自分が、誰か男の子を好きになるとはとうてい思
えなかった。やりたい事が山ほどあるし、学びたい事がいくらでもあるのだっ
た。好きだの嫌いだの、遠い世界のことだと思った。
「…そうだね。でもないと思う」魔女は水晶玉を見つめている。
「ほんと?」
 ケンスケはトウジとふざけるふりをしてじっと耳をそばだてていた。
「とても変わった男の子が見える。…不思議だ。こんな像を見せるなんて…な
んていったらいいのか」年上の魔女は黙ってしまう。
「その子はどこにいるの?」アスカは半信半疑で言う。
「近いよ。とても身近にいる男の子だ。…あなたは、その男の子に無関心では
いられなくなると思うよ。…いまはなんとも思ってなくても」
 ばかでかいひび割れたつりがねが、ケンスケの頭の中でぐわぁらん、ぐわぁ
らんと鳴っていた。身近な男の子!…きょうは、ずっと身近だよな。っっっっ
っっっひょっとして?…ぼ、く?
 アスカはそうは思っていなかった。彼女は自分が修行のために居候している
錬金術師の根暗の息子の顔を思い浮かべ、いそいで頭からかき消した。とんで
もない!あんな取り柄のないやつであるはずがない!
「気にすることはないと思うよ。わたしの占いは当たらないからね」アスカが
黙ってしまったので、年老いた魔女は笑うのだった。
「そうね。ありがと。じゃ」アスカは立ち上がり挨拶をすると、もう時間よね、
いきましょ、と三人の男女に言った。

 かわいらしい中学生の四人が去ってしまったあと、魔女はもう一度水晶玉を
見つめた。…だめだった。その少年の像は、まるでピントの合っていない映写
機の映し出す、ぼやけた色の付いた影だった。平板なようで底知れぬ感じがす
る色だった。
「…ああ。わたしが、せめて中級魔女だったら!」この謎めいた影の正体をつ
きとめるのに。
 追いかけて行ってあの子に注意しようか?…だめだ。いったい何をどう告げ
るのか?…あんたの好きになる男の子は…なにか、ちがった人間なんだ。そう
言うのか?
 それはいかにもさしでがましい。初級魔女が上級魔女にしていいことではな
い。その女は思った。そして、何もせずに座っていようと思った。
 アスカの運命は、そこで別の道に分かれたのかもしれなかった。

 聖歌隊の歌はすばらしかった。寒い中、鼻水を垂らしながらでも聞く価値は
十分にあった。
 ただ、ケンスケは音楽を楽しむどころではなかった。頭の中で巨大な釣り鐘
ががらんがらんと鳴っているのだった。聖歌隊の歌う『もろびとこぞりて』が
『ウェディング・マーチ』に聞こえた。目を閉じると、真っ白なドレスを着た
アスカが浮かんでくるのだった。手にはブーケの花束を持っているのだった。
 目を開けて、すぐとなりに立っている少女を見た。心臓が誰かの借り物みた
いな気がした。勝手にどきどきいっている。

 なによ、こいつ、じろじろ人のこと見て、鼻かめないじゃない、アスカは思
っていた。

「うー、寒む。なー、ラーメンでも食うてかえらんか?」合唱が終わり、ツリ
ーを中心にした広場の人々がざわめきだしたとき、トウジは言った。
「もー、ラーメンなんて。もっとクリスマスらしいこと言えないの?」アスカ
は言う。ねえ、とヒカリの方を向いた。ヒカリは黙ってツリーを見上げている。
 そのとき、ツリー全体の電飾に灯が入った。それは、淡いオレンジがかった
暖かな光だった。まるでおびただしい蛍たちが、もう暗くなった空にいっせい
に舞い上がっているようだった。
「…きれい」ヒカリはぽつりと言った。アスカはそんな親友のあどけない顔が
好きだった。
「…ねえ、アスカ、あたしこの日を一生忘れないわ」ヒカリは上を向いたまま
言った。
「…おおげさねえ」アスカは答えた。けれど、彼女もまたツリーに見とれてい
た。
 そのあと四人はどうしても麺類が食べたいというトウジの意見を採り入れて、
パスタのおいしい、けれど値段の手頃なイタリアンレストランに寄ってかえっ
た。

 四人がツリーの前から去るのとほぼ同時に、その少年はやってきた。ぶかぶ
かのダウンジャケットを着込み、胸をあたりを押さえながらのそのそと歩いて
くるのだった。
 碇シンジだった。
 全くの偶然だった。彼はクラスメートの四人がそろって出かける事さえ知ら
なかったのだ。
 シンジはゆっくりゆっくり巨大なクリスマスツリーの前まで歩いた。そして
立ち止まると、ダウンジャケットのファスナーをおろして、懐からガラス瓶を
取り出した。瓶の中には液体が入っており、小さな精巧な人形のようなものが
漂っている。
 が、それは人形ではなく生きてた。錬金術師の父が命を吹き込んだホムンク
ルスなのだ。
「見えるかい?」シンジはレイと名付けたホムンクルスに向かってささやいた。
瓶の中の、小さな妖精はきょろきょろとあたりを見渡して、やがて正面にそ
びえるぴかぴかと光る巨大な物体を、体をいっぱいにそらして見とれた。
 …とても楽しそうだ。シンジは思った。外に連れ出したのって、ぼくが普通
の水槽に入れてしまって死なせかけて以来だ。…そう思うと、胸が何か酸っぱ
くて苦い思いに満たされていくのを感じた。

 ツリーの周りには、もう夜のとばりが降りている。腕を組んだ恋人たちが、
美しいクリスマスツリーを仲良く見上げている。ツリーを取り囲むようにして
建っているショッピングモールから、感傷的な音楽が聞こえてくる。

 そのとき空から白いものが舞い降りてきた。とうとう雪が降り出したのだ。
 シンジの懐にいるレイは、ガラス瓶ごしに、その不思議な白いふわふわしたも
のに触れている。それを見下ろしているシンジは、頭に雪が静かに降りつもっ
ているのを感じながら、この子は一生ほんとの雪に触れることは出来ないんだ、
と思った。

 ガラス瓶を握りしめている手に、暖かな水滴がぽつりと落ちた。シンジは雨
が降ってきたのかと思い、天を仰いだ時に、自分が泣いているのに気がついた。
 なぜぼくは泣いているんだろう、と、考えるひまもなく、涙があとからあとか
らあふれ出てくるのだった。
 嗚咽が漏れそうになった。シンジは急いであいている方の手で、口を押さえ
た。レイにだけは、ぼくが泣いているのを知られてはならないと思った。だか
ら正面を向き、口を押さえて歯を食いしばった。毛糸の手袋に涙と鼻水がしみ
こんでいく。
 シンジはまるで迷子になった子供のように泣きじゃくっていた。

 シンジはいつまでもその広場に立っていた。
 雪で世界が真っ白になった。色という色が世界から消え失せた。近くにいる
恋人たちの服もみな灰色や黒に見えた。

 その女の子はまっすぐシンジに向かって来た。灰色の世界の中で、灰色に見
えるざっくりしたセーターを着て、黒っぽいマフラーをしていた。
その子は、シンジの顔をじっと見つめながら歩いてくる。シンジは思わず手
袋で目や鼻を拭った。
 だれだろう?見たこともない子だ、シンジは思った。女の子はほほえみを浮
かべているみたいだった。顔は真っ白、髪の毛の色は淡い灰色に見えた。両手
を口の前に持っていって、息をふーふー吹きかけているようだった。
目の前に立った。すごくかわいい子だった。白い息がシンジの顔にかかりそ
うだった。
「ひっく」シンジは大きな声でしゃっくりをする。
 その子は白い歯を見せて笑った。…あれ、この子、レイにそっくりだ。シン
ジは思う。思わず懐のガラス瓶の中を見る。
 小さなホムンクルスは眠っているように動かない。
「どこかであったっけ?」シンジは泣き声で言う。
 女の子は答えず、両手をシンジに向かってつきだした。彼は思わずのぞき込
む。
 女の子の手袋をはめた手のひらの中に、ルビーのように赤く光る石があった。
色を失ったこの世の中で、その石だけが赤かった。女の子はシンジにそれを
取れという仕草をする。
 シンジは人差し指と親指でそれをつまんだ。そして目の近くまで持っていっ
た。
 石を通して女の子が見えた。いや、石の中に女の子はいるのだった。赤くき
らきらと輝く石の中で女の子は、ほほんでいるのだった。
 手をおろす。たったいま女の子の立っていたあたりには何もない。茶色の石
畳の上には雪が、まるでかすみ草の花束のような、白い斑点模様をつくってい
る。
 シンジはダウンジャケットのポケットにその石を入れて歩き出した。
 ふところからなぜか眠るレイの思いが流れ込んできた。

 あなたにふれたい。あなたとひとつになりたい。あなたとおしゃべりをした
い。
 だめだよ、レイ。きみは人間にはなれないんだ、シンジは心の中で答えた。
人造人間じゃないほんとの人間を作り出すのは、「ウィザード」だって禁止さ
れてたんだ。おととい父さんの本で知ったんだ。
 あなたがすき。あなたをあいしてる。
 だめだよ、レイ。きみの世界はぼくだけなんだ。ぼくを通してしか世界に触
れる事が出来ないから、そんなことを言うんだ。ぼくはそんな人間じゃないん
だ。

 シンジは雪の中を歩き回った。羽根が生えたように体が軽かった。景色が溶
けて流れていく感じがした。

 夜おそく家に帰った。母親が話しかけてきたけど、答えずに自分の部屋に入
って、上着を脱ぎ、レイを勉強机の上に置いて、そのままベッドに潜り込む。

 あなたがすき。

 レイの思いが流れ込んでくる。
 ちがう、ぼくはいやらしい人間なんだ。夜になるとエッチなことばかり考え
てるんだ。変な夢ばかり見るんだ。きみを虫眼鏡で…。

 それでもあなたがすき。

 ちがうちがう。シンジは、まどろみの中で、びっしょりと汗をかきながら、
首を振る。きみを人間として扱ってるなんて欺瞞なんだ。心の中ではかわいい
人形だと思ってるんだ。ぼくだけの人形だと。ぼくはきみにそんなことをいっ
てもらう資格なんか、ないんだ。外にだしてくれーって叫んでぼくをののしっ
てくれた方がいいんだ。

 でも、あなたがすき。
 
 その言葉はシンジを苦しめた。シンジはベッドの中で頭を抱えて丸くなって
いた。

 夜の10時頃になって、息子がうなされているとアスカから聞いたユイは思
い切ってシンジの部屋に入った。
 息子は、ベッドの中でびっしょりと汗をかいてうなされていた。顔が真っ赤
だった。額に手を当ててみる。
「…!」
 ユイは急いで階段を降り、夫をたたき起こした。
「…あ?…うーーん」ゲンドウは何を勘違いしたのかユイを抱きしめようとす
る。
「あなた、起きて!シンジがすごい熱をだしてるのよ!」ユイは叫んだ。

 二人で、シンジを着替えさせ、氷枕をしてやると、落ち着いたようだった。
熱はなかなか下がらなかった。ユイは、シンジの額の汗を拭いてやりながら、
40度も熱があるのに、どこをほっつき歩いていたんだろうと思った。
 シンジは幼い頃からよく熱を出す子だった。ユイはシンジの寝顔を見ながら
思い出した。小さいころはすごくやんちゃ坊主だったのに。
 ユイはタオルを代えながら息子の部屋をなんとなく片づけていた。勉強机の
上にはあの小さな妖精が眠っていた。
 …父さんも罪なもの作るわね、ユイは思った。いったい何の教育になるのか
しら?
 ガラス瓶の横に、雑誌があった。そんなにエッチじゃないけど、女の子の写
真がいっぱい載っている。ユイは何気なくページを繰った。グラビアのところ
に、売り出し中のアイドルの女の子の写真があった。淡いピンクのざっくりし
たセータに、赤いマフラーをしたショートカットの似合う子。
 ユイはそっと雑誌を閉じた。
 もう、そんな年頃なのね、ユイは思った。
 ユイは朝までシンジのベッドの脇に座っていた。

 クリスマスのあいだじゅう、シンジは風邪で寝込んでいた。
 ユイはずっと看病に追われていた。
 ゲンドウはサンタクロースを撃墜する方法を研究していた。
 アスカは、気がつくと相田という少年と目が合うのはなぜだろうと思った。
 トウジの家にヒカリは忘れ物を届けに行った。お茶を飲んで帰った。ヒカリ
は幸せだった。

 第6話につづ…あ、モン吉は、『シゲル君』に両手を広げさせて、ツリーを
飾りを付けてみた。アスカが気に入った。
 年末年始の間中、『シゲル君』は碇家の居間でクリスマスツリーの役をやっ
た。


つづく