誰か教えて

「なーなー、あいつらこれからどうなるんだろうな」

部活が終わって着替えてるところに水谷が声をかけてきた。
前振りも何も無い。
本当ならなんのことかわからないそれ。
けれど栄口には水谷の言わんとしていることがよくわかっていた。
なぜなら今日は朝からずーっとそのことばかり聞かされているのだから。

「さあね。そんなことよりお前早く着替えちゃえよ」
「だって気になるんだもーん」
早い者は既に着替え終わって部室を後にしている。
そうじゃなくても着替え自体は終わっている者が多い。
あの三橋でさえ着替え終わったところだった。
一人二人と帰って行くというのに、水谷ときたらまだ着替えの途中だ。
なんといっても手が止まっているのだから、あとどれだけかかるのかもわかりゃしない。

「もう残ってるのお前くらいだよ。早くしてくんないと俺帰れないじゃん。今日の鍵当番、俺なんだよ?」
「だってあいつらいつまでたってもぐずぐずしてんだもん。俺、気になって気になって何にも手につかないよ」
そう言って水谷はため息を零す。
中々に真剣な様子ではあるが着替え半分の状態では今ひとつシリアス感がない。
こっちがため息を吐きたいと、それは栄口の心の中だけで響いた。

「そんなこと言ったってしょうがないだろ。水谷にどうこう出来ることなんてないんだから」
「それはわかってるけどさぁ」
「ほら早く着替えて。鍵閉めるよ」
「うわ、待って待って」
慌てた様子で漸く着替え出した水谷を眺めながら栄口は思う。


(そりゃ俺だって気になるけどね。しょうがないじゃん。来週までの辛抱だよ)
脱いだユニフォームを詰め込む水谷のカバンの中から、とある週刊漫画誌がのぞいていた。
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初出

2009.02.15 (初稿2007.3)