お昼寝タイムの必需品

ある日の昼休み。
7組はいつも通りの喧騒と、少しばかりの気だるさに包まれていた。
花井・阿部・水谷の三人はいつもと同じように集まって昼飯を食べたし、いつもと同じように阿部と水谷の軽い口げんかの応酬があった。
花井の呆れの混じった仲裁が入るのもいつものことだし、離れた席で篠岡が微笑んで見ているのも、もうお馴染みの風景になっている。
勿論、篠岡はすぐにクラスメイトとの会話に戻ってしまったけれど。
そんないつも通りの昼食後、水谷は持ってきたヘッドフォンをつけて今は昼寝の真っ最中だ。
阿部は窓から入ってくる風に目を細めながらグラウンドを眺めている。



「あべー、花井は?」



昼休みもあと10分程になった頃、教室の入り口からのぞきこんだ栄口が声をかけてきた。



「おう、栄口。」

「シガポが呼んでるってさ。俺も今、うちの週番から聞いたんだけど。」

「花井ならさっき購買行くって出てったぞ。」

「うわー、すれ違っちゃったか。」

「なんの用だって?代わりに俺、行こうか。」



そう言って立ち上がりかけた阿部が、途中で動きを止める。
隣で寝ている水谷は身動ぎもしない。
中腰という中途半端な態勢のまま固まった阿部と机に突っ伏したままの水谷を見て、栄口はお得意の笑顔で答える。



「いいよ、どうせ部活のことだろうし、このまま俺聞きに行ってくる。」



じゃーね、と片手を上げて去っていく栄口を見送った阿部は、ストン、と気の抜けたように椅子に座り込んだ。
そして視線は眠る水谷の後頭部へ。
ちらりと自身の左手を見やると阿部は、周りに聞こえないように小さく小さくため息を吐くのだった。
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初出

2007.07.08