Call my name
「おい、クソレフト。早くしろ。」
あの練習試合からこっち、阿部は俺のことを『クソレフト』と呼ぶ。
肝心な場面でミスったのは自分だから最初は甘んじて受け入れた。
でもさ、部活中だけでなく教室でもそう呼ばれているのでは、そろそろ正直止めて欲しいと思う。
まあ怒っているときだけじゃなくて世間話してるときにも呼ばれるわけだから、良く言えば愛称というか、あだなのつもりなんだろうけど。
「ねえ阿部。いい加減その呼び方止めてよー。」
「なんで。」
「なんでって、そりゃやっぱり…。どうせなら『フミキ』って呼んでよ。」
にっこりとびきりの笑顔で告げる。
俺の席の隣に立つ阿部に、座ったままの俺。
いわゆる上目使い。
かわいこぶってるわけじゃないけど、阿部がどんな反応をするのか気になって仕方がない。
けれども阿部は無言で教室のドアへと向かっていってしまう。
ちょっと離れた席で花井がこっちに視線を向けているのがわかった。
どうせ、また阿部を怒らせて、とでも思っているんだろう。
でも俺は知ってる。
あれは怒ってるんじゃない。
その証拠にほら、声がかかる。
「早くしろよ、水谷。」
初出
2007.07.08