例えるならば。
「タカヤー、あれどこやったっけ?」
さっきからカバンの中をがさごそ漁っていたモトキが、着替えをしながらメンバーと談笑中のタカヤに声をかけた。
さすがに上着は着ていないもののすでに着替えの終わっている彼は、今度はロッカーの中身を片っ端から取り出している。
「またですか。いい加減そのなんでも適当にほっぽるクセ、どうにかしてくださいよ。」
「うるせえよ。いいから知ってんなら教えろっての。」
シャツのボタンを留めながら顔だけモトキの方を向いたタカヤは、あきらめのため息を吐きながら口を開く。
年上のくせに子供みたいな相手だ。
ヘタに説教をして機嫌を損ねると後が大変だとわかっていても、それでも言わずにいられない。
「教えるのはいいですけど、毎回毎回聞かれてもこっちも困るんすよね。自分のものくらいちゃんと管理してくんなきゃ。」
「いいじゃん、お前が知ってんなら俺困らねーし。」
「そうじゃないでしょ。モトキさんがそんなんだから俺が仕方なく…!」
「あーもー、ぐだぐだうるせー。お前は俺の母親かっての!」
「…っ。」
しっかり機嫌を損ねたモトキのその言葉に、タカヤはとっさに返すことが出来なかった。
いつものことだと思いながらも二人のやり取りをそっと見守っていたメンバーたちは、お互い目を見交わしながら小声で言葉を交わす。
「いや、どっちかってーと。」
「うん。タカヤなら。」
「だよな。」
そんな周りの言葉が聞こえているのかいないのか、ようやくタカヤが声を出す。
「もちろん、俺はあんたの母親じゃねーよ。てか、俺が母親だったらさっさと躾なおすね。」
「てっめ…!」
「とりあえず。モトキさんの探し物はカバンの横のポケットの中。練習始まる前に、あんた自分で入れたでしょ。」
「へ?ポケット?」
ふいにきょとんとした顔になってモトキはカバンのポケットを探りだした。
たいして大きくもないポケットである。
ほとんど間を置かずに目当ての物を見つけると、子供のように歓声をあげた。
「おっ、あった!なんでこんなとこ…。俺入れた覚えねーんだけどな。」
ぶつぶついいながら手はすでに包みを剥がしている。
ガムを口に放り込み上着を着込むと、モトキは何事もなかったかのように名前を呼ぶ。
「帰るぞ、タカヤ。早くしろ。」
「ちょっ、待ってくださいよモトキさん。俺まだ着替え終わってない…。」
「急がねーと置いてくぞ。」
「げ。」
タカヤは大慌てで残りのボタンを留め、脱いだユニフォームをカバンに詰める。
性分としてはたたんで入れたいところだが、今はそんな余裕もない。
モトキを見習ってただ詰め込んだ。
とりあえずカバンが閉まればそれでいい。
そこで顔を上げると、モトキはとっくにカバンを持ち外へ出ようとしていた。
「モトキさんっ。」
「あっ、タカヤ!」
上着を掴み、カバンを肩にかけるとタカヤは急ぎモトキの後を追う。
そこへかかったメンバーからの声に、駆け出しかけた足を止め一礼する。
「あ、すみません、先輩方。話の続きはまた今度。お先っす。」
有無を言わせない勢いでそれだけ告げるとそのまま走り出した。
ドアが閉まり二人の姿が見えなくなると、残されたメンバーはお互いに顔を見合わせる。
「おい、あれどう思う?」
「いつものこととは言え、なあ?」
「普段あれだけ球をぶつけられたり喧嘩したりしてんのに、自覚ないのかねあいつ。」
「それよりも俺、なんでタカヤがモトキの探してるもんわかったのかが不思議なんだけど。」
「そりゃあれだよ、あれ。」
「われなべにとじぶた!」
二人の去った部屋からは、爆笑する声が響き渡った。
初出
2006.04.02