かみなり

「あー!叶ってばまたレンレンのこと泣かしてる!」



突然響いた甲高い声に、叶はギョッと身を竦ませた。

目の前には蹲って泣いている子供。
その前に立っている自分。

傍から見れば苛めて泣かせているように見えるかもしれない。
だからって『また』ってなんだ!と思う。
オレが泣かしたわけじゃない。
いつもだってオレが泣かしているわけじゃない。
というより、泣かしたいわけじゃないのだ。
出来ることならいつでも笑っていて欲しいのだ。
今現在目の前で泣いている子供に。
自分の力で笑顔にさせてやりたいのだ。
だけどこの瞬間ばかりはどうしようもない。
叶は自分の無力さを感じながら、とりあえず先の言葉の撤回を求めた。



「ばか。何いってんだ。オレが泣かしてるわけじゃないぞ!」

「えー。だってこの状況見れば誰だってそう思うわよ?」

「お前な…。分かってていってんだろ?」

「まあ、ね。しょうがないよね、これじゃあ…。」



そういって空を見上げた少女は、差していた傘をクルリと回すと手に持っていた方の傘を叶に差し出す。
そして黙って受け取る叶を見もせずにしゃがみこむと、膝を抱えて泣いている子供に声をかけた。



「レンレン、帰ろ?迎えにきたよ。」



恐る恐る顔を上げた三橋の視界に、微笑むルリと受け取った傘を広げている叶が見えた。



「あ…。」



かわいいけれど怒ると怖い、でもいつも自分を心配してくれるイトコの顔を見てホッとしたのも束の間。
空に白い稲光が走り、そう間をおくこともなく雷鳴が轟いた。
瞬間、三橋は再び顔を埋め丸くなってしまう。



「ほら、レンレン。大丈夫だって。」

「でも、か、かみなり、が…。」

「大丈夫ったら大丈夫!さっさと家に帰ろ?そのままじゃ風邪ひいちゃうよ。」



三橋の腕を取り引っ張って立たせようとするルリの手も、雨に濡れて冷たくなっていた。
今日は叶と三橋の二人でキャッチボールをすると言って家を出てきたのだ。
いつもの場所には先客がいた為、少し離れた空き地にまで足を伸ばした。
結果、迎えに来てくれたルリは二人を探すために歩き回るはめになったのだった。
だが、ルリにとってみれば仕方の無いことなのだ。

だって、絶対レンレン泣いてるもの!



「ほら立って!こうしてれば平気でしょ?」



そう言ってルリは三橋の手を握る。
優しく、でも安心させるように力強く。
そしてニッコリと笑った。



「ル、ルリちゃ…。」

「叶もそっちの手繋いで!」

「何でオレも。」

「いいから!ね、レンレン。あたしたちが一緒なんだから大丈夫なのよ。」

「う、ん。」



まだまだ不安げな三橋をよそに、ルリは上機嫌で出発を告げる。
やや小降りになった雨の中を、三人は手を繋ぎ家路を辿った。
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初出

2005.10.10