夏祭り

練習帰りに見かけたポスターが気になり、タカヤはふと足を止めた。
なんていうことのない普通の夏祭りのポスター。
地元の夏祭りは年々寂れていって、だんだん行く気も失せてしまっている。
だが、ここの祭りは盛況なのだろうか。
太鼓の音がここまで響いてくる。



「どうした?」



立ち止まったきり動かないタカヤを不審に思ったのか、先を歩いていたはずのモトキが振り返って声をかける。
聞こえているのかいないのか、けれどタカヤはじっとポスターを見つめるだけだ。
実のところなんでこんなに凝視しているのか、タカヤ自身にもわかってはいないのだけれど。



「おーい。聞いてんのか、タカヤ。」



痺れを切らしたモトキが戻ってきた。
タカヤの横に立ち、その視線を一身に受けているポスターを見る。
モトキにとってはなんの変哲も無いポスターだ。
別段興味もわかない。
隣を見ると、相変わらずタカヤはポスターを見つめたままだ。



「行きたいのか?」



問いかけるとピクリと肩が揺れ、ついで視線がモトキに向けられた。



「行きたいんだろ?後は帰るだけだし、ちょっと寄ってくか。」

「別に行きたいわけじゃ…。」

「気にすんなよ。タカヤもまだまだガキだよな。」

「だから違うって…!」

「いいからいいから。まず何する?射的か、金魚すくいか。あ、でもまずは腹ごしらえだな。焼きそばでも食うか。」

「モトキさんっ。」

「ほらいくぞ、タカヤ。」



言うなりモトキはタカヤの手を取り先に立って歩く。
タカヤは、引かれるまま後をついていった。

(どっちがガキだよ!)

叫んだはずの心の声は、モトキに届くことはなかった。
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初出

2005.09.19