君恋し

西浦との練習試合が終わり、三橋は新しいチームメイトたちと仲良く帰っていった。
グラウンドの整備を終え、ミーティングを済ますと、こちらも各々部室を後にする。
試合に負けた悔しさはあるが、長年の苛立ちから解放されて、三星のメンバーの中にもすっきりした奴らは多いだろう。
叶は一人、ベンチに座って窓からグラウンドを眺めていた。
カバンを背負い、帰ろうと立ち上がった織田が、叶に声をかける。



「帰らんのか、叶。」

「…。」

「皆帰ったで。お前で最後や。」



だが、叶からの返事はない。
ミーティングの間から考え事をしているようだった。
一人で何を考えているのだろうか。
織田がどう声をかけたものかと考えていると、向こうから声がかかった。



「なあ。」

「なんや。」

「オレってダメな投手だよな。」



今日の試合中、打たれて崩れたことを思い出しているのだろう。
確かにあれは 『お山の大将』 としては最悪だ。
守備についていても不安になって仕方ない。
だが、叶はすぐに立ち上がった。
そんなに落ち込み続けることじゃない。



「そんなことないで、叶。」

「試合に負けちまったし。」

「どっちかは負けるんや、仕方ないで。」

「なあ。」

「あんま気にすんなや。」

「三橋、帰ってこないかな。」

「(コイツ…!)」



あくまでも三橋を思ってやまない叶に、先が思いやられる織田だった。
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初出

2005.08.22