その男、危険につき。
ガチャッと音を立ててフェンスを開け、水谷がグラウンドに入ってきた。
同じクラスの花井・阿部と比べて到着が遅かったのは、ただ単に清掃場所が遠かったためだ。
先に部室に寄ってきたのか、すっかり身支度を整えている水谷だったが、そのやる気があまり伺えないところが水谷が水谷である所以だろうか。
「よしよし、モモカンはまだだな。」
独り言を呟きながら周りを見回す。
最初に目に入ったのがグラウンド整備中の阿部だったのは、もう不運としかいいようがないだろう。
そしてそこで阿部にちょっかいをかけに行ってしまうのが、やはり、水谷なのだった。
「阿部ー、お疲れさーん。」
「ああ。」
眼光鋭く阿部が振り向く。
一目見て阿部の不機嫌さがわかるだろうに、自分の見たものに意識が向いているのか、水谷はそのまま話を続ける。
「なぁなぁ、今そこで三橋が他校のヤツと話してたんだけど。あれって確か三星のピッチャーだったよな?」
その途端、周りの温度が一気に下がった。
少なくともグラウンド整備に精を出している周りの者たちはそう感じた。
「…ああ。」
「何しに来たんだろうな?もしかしてまた三星に帰って来いとか言いにきたんだったりして。」
「!」
「三橋はうちのエースなんだから無理なんだってのにねー。なあ、阿部。」
「うるせえっ!」
叫ぶなり阿部は水谷を突き飛ばしグラウンドを出て行こうとする。
そろそろ百枝もやってくるだろう頃合だが、誰一人として止めようとするものはいない。
というよりも、先程の怒声に驚きすぎて、身動きがとれずにいるというのが正解だろうか。
至近距離で叫ばれ突き飛ばされ、尻餅をついた形で呆然としている水谷に、栄口が近づき呆れ声で言った。
「水谷、お前ね、いい加減場の雰囲気読もうよね。」
「…。」
「ほんっと懲りないよね。」
「…すみません…。」
話を終えて戻ってきた三橋が、グラウンド整備も途中で立ちすくんでいるメンバーを不思議そうに眺めていた。
初出
2005.07.31